ソフトバンク、ホークス代表代行、後藤芳光氏の嘆き(後)
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後藤芳光氏は1963年生まれの52歳。87年に旧安田信託銀行に入行した元銀行マンだ。旧富士銀行副頭取から安田信託会長に転じていた前述の笠井氏に見込まれ、笠井氏が2000年にソフトバンクに転じた際に、一緒に馳せ参じてきた。以来、M&Aや資金調達など、孫氏の無理難題に付き合ってきた。
ボーダフォンの日本法人を買収するときには1兆4,000億円の借り入れを実現させ、やがて過剰債務が問題化すると、ものすごい勢いで返済し、2兆4,000億円あった純有利子負債を一時5,000億円にまで減らすことに成功した。
そして米スプリント買収では、社内に密かにつくられた特命チーム「コロンブス」のメンバーの一員として関わり、1ドル=82円という円高のほぼピーク時に1兆6,000億円を調達して、「小」が「大」を飲む巨大買収を成功させた。米ディッシュ・ネットワークスが横やりを入れるような敵対的買収を仕掛けてくると、ソフトバンクは内外の有力金融機関20社に資金調達や財務アドバイザーの仕事を発注し、陣営内に引き入れることで、敵であるディッシュへの軍資金の道を途絶することに成功してもいる。資金需要が旺盛なソフトバンクは、金融機関にとってありがたい顧客企業。その「地位」を利用して金融機関を操ることを後藤氏は得意とした。かつてボーダフォン買収の際、ソフトバンクに対抗して買収に名乗りを上げたサーベラス側にモルガン・スタンレーとJPモルガンが回ったが、ソフトバンクは敵側につく金融機関とは取引を全面シャットアウトする。モルスタとJPは以来、数年間、ソフトバンクの社内に足を踏み入れることができなかったというのは、M&A業界では有名な話だ。
こうした強気の財務で孫氏の野望を支えてきた後藤氏だが、あっけなく1年で取締役を離れる。ソフトバンクは早くもアローラ氏中心に回り始め、彼が欧米のネット業界や金融機関から続々と優秀な人材を引き抜いている。そんな外人部隊が今、東京・汐留のソフトバンク本社26階を“占拠”する。元からいた日本人スタッフは別の階への異動を告げられる。それは同時に、中枢からの排除を意味した。
そうやって中枢から外された日本人の中堅幹部は「最近の後藤さんはすっかり元気がない」と言う。別の幹部も「後藤さんはやる気満々だったし、すごく張り切っていただけに、びっくりだろう。たった1年でオシマイというのは、いくらなんでもねえ……」と打ち明ける。
後藤氏は、ホークスの代表代行になるとともにソフトバンク本体の取締役になったため、事実上、かつての笠井氏の衣鉢を継ぐと見られていた。創業以来の股肱の臣の宮内氏を除けば、実質ナンバー2のはずだった。週末を利用して福岡に出張し、地元財界や球団関係者とのゴルフや宴席をこなし、次第に福岡でも知られるようになってきた。誇大妄想的な孫氏の事業欲を成就させようと、個人向け社債という新たな資金調達のツールを開発し、個人金融資産に手を突っ込むアイディアをひねり出した。そんな精勤ぶりを結局のところ主君は評価しなかった。後藤氏あってのソフトバンクのはずなのだが、孫氏の関心は今、アローラ氏が語る30年後の未来にある。
「今の孫さんは相当、ニケシュにインスパイアされていますよ。それを孫さんは凄くエキサイティングに感じている」と、かつての側近は語る。
狩猟民族型のアローラ氏やその配下の者たちと比べると、おそらく宮内氏、後藤氏、藤原氏という日本人幹部は物足りないのだろう。だから、すでに事業基盤が安定した国内通信事業(現・ソフトバンクモバイル)は彼ら農耕民族に任せ、一攫千金のアメリカンドリームや三国志的な権謀術数は外人部隊に担ってもらう。
まさに「任務交代」である。「しかし」――と元幹部は言う。
「孫さんは人間の心を読めない。結局は使い捨て。これでは誰もついていかなくなるぞ」。そんな忠言をする者がいないところが、今のソフトバンクの課題である。
(了)
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