愚の骨頂、ウクライナと南シナ海問題を同列視した安倍首相(2)
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副島国家戦略研究所(SNSI)中田 安彦 氏
安倍首相は去る4月末にアメリカ議会で上下両院の合同演説会という「偉業」を成し遂げた。形としては、この議会演説は米下院議長のジョン・ベイナーとオバマ政権が求めたということになってはいるが、実際には違う。この米議会演説のお膳立てをしたのは、駐アメリカ・イスラエル大使であったロン・ダーマーというイスラエルのネタニヤフ首相に近い人物とマケイン上院議員だったのだ。このことは、日本の「読売新聞」や「日経新聞」などのメディアが報じている。安倍首相のスピーチライターはアメリカのネオコンの論客に非常に造詣が深い谷口智彦という人物であり、谷口はイスラム国の人質事件の時にもBBCに出演し、日本政府の「テロに屈しない立場」を代弁していた。外務省外務副報道官をしていたこともある。彼が安倍政権誕生直後から首相のスピーチや寄稿を首相の意向を踏まえて書いているようだ。そして、その内容はアメリカの共和党ネオコン派の思惑を汲んだものとなっており、民主党政権やそれまでの自民党政権のものとは全く様相が違っている。例えば、安倍晋三が「プロジェクト・シンジケート」という論文投稿サイトに寄せた、海洋国家同盟が中国の進出を封じ込めるべきだとする「セキュリティダイヤモンド構想」はかつて、ブッシュ政権の国連大使であったネオコン派のジョン・ポルトンがWSJ紙に寄稿した論文に非常によく似ている。
安倍首相は第一次政権においては、ネオコン派の牙城であったアメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)を重視する外交をしていた。しかし、現在の民主党のオバマ政権下にあっては、よりオールラウンドの安全保障専門シンクタンクである、CSIS(戦略国際問題研究所)のマイケル・グリーン上級副所長やリチャード・アーミテージ元国務副長官、ジョゼフ・ナイ元国防次官補らのグループとも連携し、一方でネオコン派のマケイン上院議員らとも広く連携して、中国に対抗する外交を基軸にしている。
これに対して、自民党内では福田康夫元首相や二階俊博総務会長のような「賢人・党長老」たちが、中国との緊張関係を緩和する役割を担っている。つい先日も二階総務会長が安倍首相の信書を携えて、日本の観光業界の関係者3,000人を引き連れて訪中し、習近平国家主席に信書を手渡ししたことが話題になった。これはかつて民主党の小沢一郎代表が支持者600人を引き連れて訪中した時の実に5倍の数である。二階総務会長は、日中の観光を拡大させることで草の根の理解を深めようとしている「観光立国」派である。いくら安倍政権が反中国のスタンスを持っているといえども、円安の今は中国観光客の日本における大量消費(「爆買い」)が日本の景気を支えていることは間違いないのである。だから、安倍政権においても一応は日中の緊張を緩和するチャンネルは存在する。
しかし、かつての保守本流と言われた宏池会系の岸田文雄外相のグループ、宏池会から別れた谷垣禎一幹事長率いる有隣会は今や保守本流の座を安倍が事実上率いる清和会に奪われてしまっている。宏池会や有隣会は比較的リベラルな勢力だが、今の安倍政権では二度に渡る選挙の結果、党内の権力基盤を確かにした清和会に異論を唱えることが出来ない状況にある。そして、清和会においても従来の福田赳夫元首相の系統や、小泉純一郎元首相の小泉チルドレンの系統も安倍一強体制に圧倒されている。
清和会は福田康夫のようなエリートがいなくなって、森喜朗の部族長タイプの政治家も引退して前面から消えることで、岸信介の流れの「世界反共連合」の色合いが強い勢力や、宗教右派ともいうべき日本会議のような存在に動かされている。自民党の原発推進も今やこの勢力の路線であり、もともとの田中角栄系ハト派の単なる土建屋路線とは違う勢力が動かしていると見た方がいい。
同派閥の有力議員である高市早苗総務大臣は先日5月中旬に都内で行われた清和会のパーティにおいて、「私たちこそ保守本流」と実際に言ってのけたほどだ。安保法制をめぐる今国会の議論においても、本来の保守本流であった岸田外相(宏池会)と中谷元・防衛大臣(有隣会)は、安倍晋三の右翼タカ派の中国との対決路線を支えざるを得ない状況に追い込まれているという恐るべき状態になっている。(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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