事業総利益を超える迷惑料に値上げ?~軍艦島と漁協(後)
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漁協の厳しい財務状況
地元・長崎では、そもそも野母崎三和漁協が迷惑料をもらうこと自体に違和感を抱く声もある。軍艦島という呼ばれ方が定着している端島は05年の市町村合併前の旧高島町に含まれており、2001年にそれまで所有していた三菱マテリアルが旧高島町に無償譲渡した。端島の位置は、高島から南西に約2.5km、約4.5km離れている野母半島よりも近く、同じく炭坑の島であった高島との結び付きもあった。高島には西彼南部漁協の高島支所があり、漁業も営まれている。
一方、野母崎三和と端島との関係では、1974年の閉山前に、端島で暮らす人たち向けに、野菜や魚介類などの行商が野母崎から行われていたほか、人気の高い釣りスポットであった端島の岸壁に釣り人を渡していたという事実がある。ただし、釣り人を渡していた事業者は現在、新規参入が困難な軍艦島上陸見学ツアーも行う事業者のうちの1社。また、迷惑料を直接的にもらっているわけではない。
上記のような疑問の声もあわせて、野母崎三和漁協の事業総利益から考えてみると1人300円への迷惑料値上げは行き過ぎた配慮のようにも思える。むしろ、現行のままでも十分と思える迷惑料の値上げは同漁協の財務状況に対する配慮ではないだろうか。
10~14年度の決算書を見ると、同漁協の当期未処理利益は大幅な赤字で推移。これは10年度以前からの損失を毎年度繰り越しているため。経常損失2,243万2,000円となった13年度においては、7,727万円の繰越損失が出資金8,634万円を食いつぶし、純資産882万円と債務超過一歩手前となっている。14年度は、前年度不調であった販売事業と指導事業が復調し、経常利益1,872万円と持ち直したが、次年度に5,887万円の損失を繰り越している。1人300円の迷惑料は、同漁協が抱え続けている財務上の頭痛のタネである繰越損失を穴埋めする『待望の救世主』となるだろう。
迷惑料について何ら説明がないまま1人300円に値上げし、ツアー料金の値上げとなれば、世界遺産関連で見学者が急増するなかでの“便乗値上げ”と捉えられてもおかしくはない。海外からの観光客も増えるなか、構成資産の1つで見学料の急な値上げがあれば、「明治日本の産業革命遺産」全体が誤解を招くおそれもある。幸い、値上げを疑問視するツアー事業者が、事業者間の協議で待ったをかけており、今のところ保留となっている状況だ。誰のための軍艦島見学ツアーなのかを考え、お客様である見学者への説明責任も含めてしっかり検討すべきだろう。
(了)
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