究極の計画引退 計画を貫き快走した人生(後)
◆ 堅い信念の中に義理深い一面
進興設備工業の経営姿勢は、当然ながら与信管理にも厳しい。過去の不良債権で目ぼしいものは東建設(本社・福岡市南区)に対してだけである。
舩津氏は、かねてから
「東建設には今までの恩義から5,000万円は覚悟する」
と公言してきた。結果的には、その枠内に収まったが、ここではその堅実さを指摘するのではない。同氏の義理堅い一面を紹介したいのだ。
同氏からは度々、スクープの材料をいただいた。これに関しては、今でも感謝をしている。この人は情報が集まる「星」を持っている。
東建設が潰れる1年半前のことだ。当時、舩津氏は社長のポストにいた。東建設の情報収集に立ち寄った際に、やおら同氏は社長室の金庫から1億円近い東建設の手形、証文を持ち出し提示してきた。金を工面してやっていたのだ。
「舩津社長にしては珍しく、リスクを被るかもしれない大胆なことをやりますなー」
と皮肉を込めて対応した。
「いやー、私は副社長にはお世話になっているし、信頼しているので頼まれれば、断われません」
と苦笑して顛末を話してくれた。
儲かっているから豪儀なことができるのであるが、裏を返せば、東建設の経営の現実をすべて披露して筆者に取材の動きを封殺させる狙いもあった。時間を稼ぎ、回収のメドをつける用意が必要だったのだ。かつて舩津氏がオーナーの老獪さに翻弄された結末を筆者に対して応用したのだろう。
スクープを提供されれば、こちらも恩義を抱いて必死で東建設の動向を逐次、報告する。結果は当初の設定どおりに5,000万円枠内の被害に収拾させた。
◆ 有言実行
本当に肝っ玉の据わった人だ。身内の建設会社が2回目の不渡りを出して潰れた。この会社の社長の体内は、癌に蝕まれていたのである。医者は「あと1年の余命」と宣告した。
舩津氏は一般債権者に
「社長は、後1年の命だ。私が保険金をかけ続けるから、皆さんにはそれなりの高い配当ができるはず。うろたえずに静観してほしい」
と訴えた。
「舩津社長のことだから誠意ある決着をつけてくれるはず」
と一般債権者は納得した。
1年半が経過し、建設会社の社長は存命していた。馬鹿な債権者が
「あの社長はプールで泳いでいたぞ。元気な様子だった。癌という話は嘘ではなかったのか」
と騒いだ笑い話もあった。
社長が亡くなられたのは倒産してから2年半後。この2年半の間、舩津氏は保険をかけ続けてきた。結果的に3億円の保険金が下り、一般債権者には80%の配当が可能になった。誠に痛快な話である。
舩津「伝説男」のエピソードの2例をレポートした。この類の事例には枚挙に暇がない。
今後は町内会の奉仕活動をするそうだ。町内会への貢献を蔑にする気持ちは微塵もないが、やはり中小企業の経営指導にあたっていただきたい。筆者も取材を通じて各方面のさまざまな方々と知り合えたが、その中で舩津政隆氏は5本の指に入る恩師である。
これだけの快走人生を送れば、100歳までの長寿は間違いないだろう。果たして、そこまで読んで人設計をなされているのだろうか。
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