サラリーマン社長と創業社長の執念の差 [2]
何も豹変したことを批判しているのではない。仕入れメーカーのトップから
「有薗さん!!貴方しかベスト電器の舵取り出来る人はいない。応援するから社長になってくれ」
と嘆願された。ここまで頼まれたら断るようでは男が廃る。受けるべきだ。立つべきだ。
受けた以上は、悔いのない社内改革を貫徹して体制を造りなおすべきことが問われていた。何もかもが中途半端だった。 最終評価は『有薗氏って人は二番手では優秀だったようね』と烙印を押されてしまうのである。 |
◆ 愛する苦言を受けきれない器量の無さ
弊社ではかなり昔からベスト電器のためには愛の苦言を呈してきた。
5年前のことだ。同社の関連会社の幹部に贔屓(ひいき)を受けて羽振りよく振舞う女性経営者がいた。関係者内では
「あんなに公然と活動させて問題は無いのか」
と糾弾する声が高まっていたのである。
結果としてはこの女性経営者の企業は当然の如く倒産した。当然の如くベスト電器は被害を被った。また「ベストと関係がある」と信じていた取引先も大きな実害を受けた。
この危うさ・理不尽さを耳に入れ最悪事態を予想して問題点を指摘してあげた。「愛するベスト電器を思ってこそ」なのだが、器量の狭い有薗氏は根本的な解決の選択を行うことをしなかった。まず女性経営者と密着していた幹部の処分も中途半端であった。
同社が強調する『コンプライアンスの遵守』が白々しく映る。この一点からも有薗氏では決断の乏しさからリスク経営には不向きと予測はされていた。
◆ サラリーマン社長のいい加減さ
よく創業者の経営伝を読んで遭遇することがある。経営のピンチの際に仕入先やバンカーからの助言・サポートを受けて再起できる切っ掛けを掴む。創業経営者は恩義に報いるために生死をかけて再建へ向けて奔走するのである。
有薗氏にはその執念度合いが希薄だった。「社長をやってくれ。貴方しかいない」と声をかけてくれたメーカーの社長への恩返しは会社を隆々とさせることだ。果たして命をかけて快走をしてきたのだろうか!!
前回、若干触れた有薗氏の不運。創業者が同氏に二代目社長のポストを譲っていたら局面が多少は変わっていたかもしれない。ベスト電器の幹部たちは誰もが「次の社長は有薗専務」と決めてかかっていた。だからこそサラリーマン処世術で「専務、専務」と媚を売っていたのだ。
突然の暗雲、予期せぬオーナーの長男の二代目社長の誕生と相成った。瞬く間に有薗側近と目されていた幹部たちは掌をかえて新社長に寝返ったのである。
同氏の周囲には信条を理解できる数人の人材しか残らなかった。権力・権勢を失った者から人が離反するのは当たり前だとしてもだ。権力の前には非情な現実が横たわっている。
そしてまたまたドラマのシナリオは興味ある展開になった。二代目社長の予期できない急逝で三代目社長のポストが有薗氏に転がってきた。幹部たちも大変だ。また節操をまげて「有薗社長、有薗社長」と尻尾を振る羽目に相成った。
幹部たちの性根を見抜けたはずの三代目社長・有薗氏はベスト電器の将来のための人事布石を大胆に打つべきであった。就任した当時ならまだ外部からも人材スカウトは可能なはずだったはず。退廃した社風を一挙に叩き潰す機会はあった。
だが、やはり学習院大学卒の貴公子には非常事態に必要な荒治療の振る舞いはできなかったのは歴史の必然か!!
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