サラリーマン社長と創業社長の執念の差 [6]
サラリーマン社長はよく「社員のために命をかける」と大義名分を吐く。額面どおりの行動力を発揮してくれれば尊敬をする。世間にはそういう逸材も沢山いる。
しかし、経営者の過度な責任の重さから逃避するために「社員のため」を口実にするサラリーマン社長がいる。その実例として作州商亊の樺島社長がリストアップされる。
◆ 『社員のために』が就任挨拶
マンションの後発メーカーであった作州商亊は一気呵成に200億円の売り上げを突破した。この躍進の原動力は創業者・城戸氏の経営能力の卓越さによるものだ。
ところが脱税工作により摘発逮捕される事件が発生した。城戸氏は執行猶予つきの実刑を打たれた。
そこで社長の交替が余儀なくされ福岡シティ銀行OBで常務をしていた樺島氏が社長に就任をした。
聞くところによると同氏の家族も「社長へなること」に意義を唱えたそうだ。だからこそ周囲には「樺島氏の決意は並々ならぬものだ」と感じさせたのだのだが、結果はお粗末、元の木阿弥化している。
社長就任の際に取材をした。
「オーナーが逮捕されるという非常事態に難儀な役を引き受けましたね」
と皮肉を込めて意地悪な質問をしたのだ。樺島氏は
「いやー、作州商事はすばらしい会社です。潰すわけにはいきません。またグループで200人からの社員がいます。この社員たちを守るためにも全身全霊を尽くして社長の大役を務める覚悟です」
と堂々と決意を語ってくれた。
これには感動をした。
「本気だな。よーし、微力ながら樺島氏を後押して思いの達成に貢献をしよう」
と心に決めたのである。
◆ 20億で売れておればすべてがハッピー
「樺島氏の決意、城戸氏の将来、社員のため、ひいては作州商亊のためには資本政策を打たねば根本的な解決にならない」
と判断した。だからこの会社の価値評価をしたところ基本的には20億円の値踏みとなった。
ただ裁判訴訟が数多くあり不確定リスク要因を判定する必要性があり20億円の価値にも流動的な要素が残った。その頃は城戸氏も逮捕されていた時期であり20億円近い金を握れば異存はなかったはずだ。
IB紙面でも
「作州商亊の価値は20億ある。資本政策=企業買収が遂行できれば四方目出度し、目出度し」(最近の流行用語でテックスホールダーオールハッピー)
との論を展開した。樺島氏にも度々、
「銀行機関にも相談して作戦を練ったら」
と勧めた。
「まー、そこまでは踏み込まなくてもよかろう」
という消極的な対応に終始していた。想像するに腹の中で「乗っ取り」という批判を恐れていたではなかろうか。
だが「社員ために」の気持ちを満額具現化するには資本政策に着手するしか道は無かった。やはりここ一番の戦闘の帰趨を決めるところではサラリーマン社長の優柔不断さを露呈したのか。
城戸氏はさすがだ。IBの資本政策の論陣に警戒の念を抱いたのだろう。作州商事の株の売却・転売には取締役決議事項の必要を追加事項に加えた。よく勉強をしている。いや企業掌握の執念がまるで違う。
時間が経過するにつれて樺島氏が提唱した「社員のため」経営にも見切りをつけて社員たちの退社が相次ぎだしたのだ。
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