┃山本 博久 ［やまもと・ひろひさ］
┃1937年1月16日　大阪生れ
┃住友生命勤務を経た後、37才にして不動産仲介会社を起業。
┃東峰住宅(株）社長、アーサーホーム(株）社長などを歴任し、
┃現在はアークエステート(株）代表。

■ 財津幸重氏、業界を牽引したその人となり

　東峰住宅産業創業者、財津幸重氏との訣別の時を迎えた山本であったが、その付き合いは永く、財津氏の人柄と、経営者としての優秀な手腕、先見の明には一目置かざるを得ない、福岡では傑出した人材であることには深く思いを致していた。

　遡れば山本が創業当初より東峰住宅に出入りし、開発用地として最適な土地を見つけると、財津氏の元に情報として提供していた。
　すると財津氏からは、その開発種目と開発手法を尋ねられることが多かった。山本はそれらをリポートとして文章にまとめ、提出。それを読み納得した財津氏が購入を決意。そうすると早速手付金、2千万円、3千万円の小切手を疑うことなく山本に渡し、購入契約を任せた。
　それほど山本は財津氏の信用、信頼を得ていたのだ。

　東峰住宅の用地取得には、かなりの割合でその取引の全てを仲介業者にしか過ぎなかった山本の手に委ねていたのだ。
　その代わりに、財津氏は山本に近隣交渉の一切を担当するように言いつけていた。そこで山本はそれらを全て処理し、地鎮祭を迎えるに至ると、初めて財津氏に声をかけ、地鎮祭に出席してもらう、と言う信頼関係を築いていたのだ。

　財津氏の人の扱いは他には見ない優れたものであり、山本はそれに乗せられていただけと感じている。しかしそのことによって、山本にとっても人に対する信用を得ることができた。
　山本はその点では財津氏はすごい人であった、進取の気性を持つ、今ではなかなか見ることができない傑物だった、と大いなる評価をしている。

　その進取の気性が故に、他社に先駆けマンション開発を決意した時に、真っ先に大阪でのマンション開発の経験が豊かで、ノウハウを持っている山本を呼びつけ、マンション開発の応援を依頼する結果となる。

　そしてそこでの実績を築き上げ、それを見た財津氏よりの社長就任依頼となるのは当時であれば自明の理であったのかもしれない。

　山本が住友生命でのサラリーマン時代を過ごし、生命保険会社でありながら、不動産開発に深く関わり、そのことにより福岡で不動産仲介業を興す。ここまでは普通の人間であっても、その人生の流れの中では良く起こる事象であろう。

　しかし山本特有の推進力が、また独特の視点と業務に真摯に取り組む姿勢があったればこそ、福岡のマンション供給の7割を地場デベロッパーが手掛け、シェアを占める、と言った日本全国、他では見ることができない驚異的な現象と比率。その｢地場のデベロッパーが高い競争力を持つ礎(いしずえ）を築いたのが財津氏である｣、と多くの人が声を揃える財津氏との邂逅に繋がり、それが山本にとって人生の大きなターニング・ポイントとなったのだ。

　財津氏との出会いと別れを経て、山本はいよいよ福岡におけるマンション・デベロッピングの黎明期、そして興隆期を彩り始めることになる。

　しかしそこに至るまでにはまだ若干の時間を要するのだ。

(つづく）

※この連載は小説仕立てとなっていますが、あくまで山本氏への取材に基づくノンフィクションです。しかし文章の性格上、フィクションの部分も含まれる事を予めご了承下さい。

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