┃山本 博久 [やまもと・ひろひさ]
┃1937年1月16日 大阪生れ
┃住友生命勤務を経た後、37才にして不動産仲介会社を起業。
┃東峰住宅(株)社長、アーサーホーム(株)社長などを歴任し、
┃現在はアークエステート(株)代表。
■ 新たなる消費者層、そして管理問題
物の善し悪しを見極める能力を身に付けた世代。それはバブルに酔い、そしてその崩壊によって苦汁を味わった経験がある世代だ。
しかし今、新たなマンション購買層とされるのは、20歳代後半から30歳代前半の若い層で、この世代はバブルを経験していない。そしてその親とされる団塊の世代と、それ以上の世代もその年齢からバブルの経験はあっても、どちらかと言えば恩恵に与かるよりは、苦い経験の方が多く、子供達、即ちその新しい購買層にその経験を伝えていない場合が多い。
この未知なる価値観を持った購買層の出現によって、今、第2、第3世代のマンションデベロッパーやマンション管理会社は新たな局面に立たされている。
山本はこの新たな局面であっても、マンション開発に関しては、先にも述べたように、どれだけ良い立地で、どれだけ新たな技術を採り入れ、単純に他にはない良いものを造れば、その購買行動にさほど変わりはない、と考えている。
ただしマンション管理面になると、様々な配慮が必要になるだろう、と山本は予測する。
マンション管理は清掃や設備管理と言ったハード面の管理と、居住者同士のコミュニケーションと言ったソフト面の管理、の二種に大別される。
そしてそのハード面、物理的な管理はきちんとやれば幾らでもできるので、管理能力のハードルを高くすれば、問題はない。
しかし山本は、これからはコミュニケーションの管理が重要になっていくだろう、と推測する。
コミュニケーション管理、と言ってしまえばそれは人の管理となり、文字面的には問題となる所もある。コミュニケーション管理ではなく、コミュニケーション作りだ、と山本は続けた。
マンション内居住者同士のコミュニケーション。そしてマンション外、近隣周囲とのコミュニケーション、その双方のコミュニケーションを管理会社が如何に創造し、維持、調整していくか、それが最重要課題となる。
当然のことながらマンション居住者の中にも世代が異なるそれぞれの人が混在する訳で、まさに今まで以上の多種多様な対応が迫られるのがこれからだ、と山本は強調した。
それがこれからの重要な課題であることは明確だ。
そしてその多種多様の中にはもう一つ問題が存在している。それは以前よりマンション管理会社が指摘している問題なのだ。
マンション管理については、マンション管理適正化法と言う法律で規制されているが、この法の施行によって、「マンション管理士」と言う資格制度が新たに設けられたのだ。
それまで管理会社はマンション管理業協会に属しており、そこで「マンション管理業務主任者」と言う国家資格、制度を設け、その資格者を管理会社に置かなければならない義務があり、この資格と制度は既に存在していたのだ。
この管理業務主任者は当時の建設省、建設経済局が所管しており、一方の管理士は住宅局、民間住宅課が天下り先として財団組織を作り、そこに所管させている。管理業務主任者は業者側であり、管理士は住民側、と色分けされ、この官の勢力争いに巻き込まれる形で、対立軸が生まれたのだ。
本来対立する資格ではなく、双方がちゃんとした管理をするための資格であるはずのものが、管轄する官側、その局同士の勢力争いが民間に下り、相も変わらぬ縦割りの弊害を民に撒き散らしているのが実態だ。
これによりマンション管理士の資格を取得し、有している人間が管理組合で発言力を持つようにはなるが、組合自体が完全に自主管理できるはずもなく、どうしても管理会社に委託せざるを得ない。したがって、組合ではその管理費が発生し、管理士に顧問料などを支払う費用は捻出できないでいるのが実情だ。
マンション管理士資格は実益になる、と吹聴されているものが、実際には全くそうではない、と言う問題が露呈しており、管理業協会もその無用な資格が存在していることに対して苦慮且つ心配している、と言う。
山本は一般の人が資格ビジネスでその甘言に踊らされることなく、管理資格を取るのであれば、マンション管理業務主任者資格を取った方が絶対に良い、そしてその資格があればマンション管理会社はその人材を望み、また非常に優遇して迎えるはずだ、と最後に結んだ。
(つづく)
※この連載は小説仕立てとなっていますが、あくまで山本氏への取材に基づくノンフィクションです。しかし文章の性格上、フィクションの部分も含まれる事を予めご了承下さい。
※記事へのご意見はこちら