アークエステート(株) 山本 博久 氏
┃山本 博久 [やまもと・ひろひさ]
┃1937年1月16日 大阪生れ
┃住友生命勤務を経た後、37才にして不動産仲介会社を起業。
┃東峰住宅(株)社長、アーサーホーム(株)社長などを歴任し、
┃現在はアークエステート(株)代表。
■ デベロッパーとゼネコンの関係
今、建設・土木業界は不況に喘いでいる。
業界はこれまで官の公共事業に頼り、大型工事の甘い積算の中で利潤を上げてきた。ところが官の相次ぐ公共事業見直しの煽りを受け、公共事業削減の嵐の中で翻弄され、不況のスパイラルの中へと入っていったのは、読者諸兄も良くご存知のことだ。
たしかに元気のある会社もある。それは以前より公共事業に頼らず、民需中心に事業を展開してきた会社だ。
その点で見ればマンションデベロッパーは官に依るところはなく、市場原理の需要と供給のバランスによって業績の上がり、下がりを受け、しかしそれ故に体力を養ってきたのだ。
マンションデベロッパーとゼネコンは、当然のことながら密接な関係を結んでいる。民需中心のゼネコンであれば、その関係に何ら問題はない。
ところが新規に公共事業から民需にシフトし、参入を図るゼネコンは、かなりの努力と苦労を強いられる。
それまでぬるま湯に浸かり、甘い積算、工期管理であったものが、マンション工事ともなると、その厳しいコスト積算と管理、工期の厳守、そして傷一つ許されない竣工引渡し。官ではあり得なかった厳しさを迫られるのだ。
彼らがその厳しさに息を喘がせても、それは如何ともしがたいことだ。当然だろう。マンションデベロッパーが見つめる先は消費者であり、市場原理に基づく価格設定であることは厳然たる事実。まずは販価ありき、なのだ。そこから算定される建築コストは厳密に守られなければならない。
それ故に護送船団方式で官に守られてきたゼネコンは、その厳しさに翻弄され、自らの甘さを思い知り、そのことで不況に喘いでいるのが現状なのだ。
ただ山本は、その状態であるが故に招いたあだ花が在ることに思いを致している。
それは2年前、世情を驚かせ、多大なる不信感を招いた耐震偽装問題、事件なのだ。
山本はその事態を招いた要因は様々あるが、主因として何と言っても責任を負わなければならないのは、マンションデベロッパーである、と考えている。
ゼネコン側から見れば、あまりのコスト管理の厳しさに、コスト削減への悪手法としてやってしまった、と見ることができるが、山本はそうは考えていない。
「マンションデベロッパーのトップは、やってはならないことをやらないように、きちんと目を光らせ、管理していかなければならない。そしてあの事件ではそれをしていなかった。あれは発注元のデベロッパーに責があり、その企業のトップである社長がきちんと責任を取らなくてはならない。
実行犯は設計士だが、麻原彰晃がサリンを撒け、と指示したあの大事件では、実行犯ではなくても、やはり麻原彰晃が一番悪いのと同様に、『私は設計事務所に任せていたので、私は一切知らなかった』と言ったのは言語道断で、私は知らないと言っていた一方で、コスト削減のためにできることは何でもやれ、と言ってきたのもデベロッパーの経営者なのだ。
ゼネコンがやり、設計士が実行犯として摘発されたが、そこに追い込んでいったのは、あくまでデベロッパーなのだ。最終的にお客様に売る、と言う立場にあるデベロッパーの責任でなくて何なのか。そこをゼネコン側が犯したことで、私は知らなかった、と言って済む問題では決してない。
お客様の前に立ち、はっきりとその非を認め、その信頼を裏切ったことを平身して謝らなければならない。併せてそれまで業界が必死で築いてきた信用を、土石流が発生し、周囲を甚大なる被害に巻き込みながら下り落ちるように、失墜させ崩落させた責任を、かの社長は一体どのように考えているのか。その責任をデベロッパーの経営者として絶対に取らなければならない、と私は考えている」
ゼネコンが民需の厳しさ故に起こるべくして起こった事件、と見えていたもの。
しかしあの事件の根底、そして負うべき責任の所在は、あくまでマンションデベロッパーとその経営者にある、と山本は語り、厳しく糾弾した。
(つづく)
※この連載は小説仕立てとなっていますが、あくまで山本氏への取材に基づくノンフィクションです。しかし文章の性格上、フィクションの部分も含まれる事を予めご了承下さい。
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