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【人生のエナジー】福岡地場マンションデベの系譜 その黎明期から現在をたどる (23)
特別取材
2007年11月22日 11:30

アークエステート(株) 山本 博久 氏


アークエステート(株) 山本 博久 氏
山本 博久 [やまもと・ひろひさ]
┃1937年1月16日 大阪生れ
┃住友生命勤務を経た後、37才にして不動産仲介会社を起業。
┃東峰住宅(株)社長、アーサーホーム(株)社長などを歴任し、
┃現在はアークエステート(株)代表。


■ 我が生きる道、その信念

 山本はこれまで、その信念を貫く生き方を我が道としてきた。

 山本はこれまでの人生で自ら信念を曲げることはなかったが、一連の流れの中で二回にわたり、強制力をもってその信念を曲げさせられたことがあった。

 それはアーサーホームの分割・吸収劇だった。
 この分割・吸収劇はこの連載をお読みの読者諸兄であればすでにご存知の、S銀行が描いたシナリオに基づき実行されたものだ。

 山本はアーサーホーム、アーサーヒューマネット両社の代表だった。そして両社はグループ社として存立していた訳だが、両社は山本の信念によって各々厳然たる独立した企業として存在していた。

 それではその信念とは如何なるものであろうか。

 それは、マンションデベロッパーとマンション管理会社とは切り離されたものでなければならない、と言うものであった。

 経営の形態もやり方も管理会社は管理会社として実行されなければならない。
 デベロッパーが販売したものを管理会社が引き継ぐ。そこにはお客様があって、それ故に両社の関係にナアナアがあってはならない。
 デベロッパーの考えに管理会社が振り廻されてはならない。
 管理会社はあくまでお客様から受託した業務を遂行する立場に徹さなければならない。

 その信念に基づいて山本は、デベロッパーと管理会社を分離・独立させていた。

 ところがS銀行はその信念を理解しようとはしなかった。否、元々その考え方が分からなかったのだ。
 そしてS銀行は山本に迫る、アーサーホームの債務保証をアーサーヒューマネットで行なえ、と、そう何度も。当然のことながら山本は幾度となくそれを拒否し続けた。ところがいよいよ時至ってS銀行から派遣されていた役員が、山本を恫喝してきた。

「山本さん、そこまで抵抗されるなら、アーサーホームは明日にでも潰しますよ。いいんですか。アーサーホームの保証にアーサーヒューマネットが判を押さないのであれば、アーサーホームは潰す、と銀行は言っているんですよ。本当にそれでいいんですか、山本さん」
 まさにそれは恫喝以外の何ものでもなかった。

 山本は迷いに迷う。そしてアーサーヒューマネットの役員会に諮った。
 そしてアーサーホームを救い、両社が生き残るためにはそれを受け入れざるを得ない、と言う結論に達する。
 ここで山本の信念はS銀行の恫喝によって曲げさせられた。しかしそれは1回目にしか過ぎなかった。

 アーサーヒューマネットはその時点では経営的に完全に独立しており、収益性も良かったため、経営体質に亀裂が生じていたアーサーホームの救済に乗り出さざるを得ない、そうさせろ、とS銀行は迫ったのだ。
 過去においてアーサーヒューマネットの経営状態が向上しない際には、アーサーホームが援助したことが数回あり、その経緯もあって位置が逆転したその時点では銀行の恫喝を受け入れざるを得なかったのだ。

 それでも山本は経営の本質から言えば、分けておくべきだし、お客様から見ても、やはり管理会社はデベロッパーに尻尾を振っていては駄目だ、と考えていた。

 ところがもっと酷(ひど)いことに、保証をさせておきながら、最終的にアーサーホームを整理する時には、S銀行は分割・吸収、という手法で、アーサーホーム、即ちデベロッパーを、アーサーヒューマネット、即ち管理会社に吸収させる、と言う愚挙にでる。

 山本は、それだけは絶対に逆行だ、と強力に抵抗しようとしたが、その時点では代表権のないただの会長として、何の発言権も実行力も有しておらず、歯噛みするばかりであった。
 ここに山本の2回目の信念屈曲があった。

 S銀行はアーサーヒューマネットに経営的実力があったが故に成功したこの手法を、東峰住宅産業においても同じ手法を講じる。

 山本はS銀行のこの愚挙、暴挙は将来の歴史の中で必ずや指弾され、その定見のなさを非難されるはずだ。そしてそのような愚挙にでるくらいならばアーサーホームは清算された方がましで、そのほうが世間に対しても、お客様に対しても、いい整理ができていたはずだ、と語った。

 そして最後に以下の言葉でこの一連の愚挙なる出来事を結んだ。

「自分の息子に社長の座を譲った時、私はそれまで以上、より一層の危機感を持った」


(つづく)


※この連載は小説仕立てとなっていますが、あくまで山本氏への取材に基づくノンフィクションです。しかし文章の性格上、フィクションの部分も含まれる事を予めご了承下さい。


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