鉄筋業界の現況について
「数年前と比べ仕事量は増えていますが、企業経営は良くなったとは言えません。どちらかと言えば業界環境は悪化していると言えます。受注単価も数年で上昇していますが、人材育成や福利厚生を充実させるほどの単価ではありません」と、古澤社長は鉄筋業界の厳しい現状について語る。さらに、「近年は品質や安全を重視され、短い工期での施工や複雑な建築物も増えて高い技術が求められる一方、私達が求める『適正単価』への理解が得られていないのが現実です。結果的に人材育成どころか雇用さえも困難な状況が続いています。見習いから職人へと高い技術を修得した人材には対価という『給与』を与えるのは当然ですが、現在の状況では対価と言えるほどの『給与』が支給されていませんので、離職する職人も増えています」と、業界における人離れが深刻な問題になっていると語った。
古澤社長は、マルショー鉄筋工業の職人には常日頃、「日本一の職人を目指せ」、「一人前になって独立しろ」と言い聞かせているそうだ。その目的は第一に、同社の従業員のレベルを向上させることで業界に従事する職人たちのレベルを上げ、またそれを見た若者たちがこの業界に憧れて入職するのを促進すること。「それが私の役割だ」と古澤社長は力強く自身の考えを打ち出した。昔と違い、今は職種が豊富に有り、また生活レベルも向上しているなか、若者はより多くの収入と安定を求めて就職をしている。「鉄筋業を含めた専門工事業も、いずれは若者たちにとって魅力ある職種にしていきたい」と、古澤社長はその思いを語った。
鉄筋業界はどのように変化していくのか
「鉄筋工事は旧態依然とした工法、いわゆる“在来工法”が主流です」と、古澤社長は現状を憂う。全鉄筋青年部全国連絡会議における各地域から発表においても、工期短縮や安全面の改善を目的とした新工法が発表された。「近い将来、こうした工法が取り入れられていくことと思います」と期待をしている。
しかし、現状はまだまだ厳しい。新工法を利用するか否かは設計事務所とゼネコンが決定している。「新しい物を取り入れることに対して世間は慎重ですので、新工法の普及には長い時間が必要です。鉄筋業界は日々進歩し続けていきますので、将来的には今とは違った鉄筋工事が盛んに行なわれていると思います。また、業界の将来を担う青年部として、一方的に諸先輩のアドバイスを聞くばかりでなく、青年部としての意見や改善点を聞いていただき、業界の活性化を図っていきます」と、今後の展望について古澤社長は語る。
最後に、この鉄筋業界に従事して良かったことは、という問いに対して古澤社長は、「鉄筋工事は、建物が完成すれば一般の人々の目には入りません。しかし、その人々の安全を守り、安心して生活できる建物を作り上げているのは鉄筋業であり、専門工事業者です。数十年もの間、建築物は保たれています。形として残る仕事をしているのは誇りです。最も喜びと充実感を得る瞬間があります。それはマルショー鉄筋工業の職人が誉められることです」と、人目につかずともその確かな存在感を残していく鉄筋業に、自信と誇りを持っていた。
取材メモ
鉄筋業界を違う角度から見て、業界の将来を深く考えていることが取材を通じて理解できた。最後に「職人が誉められる」と言った古澤社長の笑顔が最も印象に残る取材であった。
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