逆転勝利
瀬島氏のインテリジェンスが冴えわたるのは、62年、取締役業務本部長に就任してから。業務本部が陸軍参謀本部をモデルにした「瀬島機関」と呼ばれた組織だ。
瀬島氏の名を轟かせたのが、62年から63年にかけて争われた、バッジ・システムの逆転勝利である。バッジ・システムとは、領空侵犯機をいち早く見分ける、半自動警戒管制システムのこと。
その受注をめぐり米ヒューズ=伊藤忠、米GE=三井物産、米リットン=日商の3組が争ったが、GE=物産連合が優勢で、ヒューズ=伊藤忠の勝ち目はなかった。
業務本部長に昇格した瀬島氏は陣頭指揮で部下を防衛庁の情報収集に走らせた。内局や空幕の幹部に深く喰い込み、価格情報を探ると、思い切り値段を下げて応札した。
応札額はGE207億円、リットン170億円、ヒューズ130億円。安さが決め手になり、ヒューズ=伊藤忠連合に決まった。
どんな裏工作をしたかは、語られていないが、瀬島氏の指揮が伊藤忠に逆転勝利をもたらしたのである。
インテリジェンス力
瀬島氏のインテリジェンス力は飛びぬけて高い。なかでも圧巻は、山崎豊子の小説『不毛地帯』でも描かれている第3次中東戦争における情勢分析である。伊藤忠の常務当時のことだ。
1967(昭和42)年6月、第3次中東戦争が勃発した。イスラエルとアラブ連合(エジプト、シリア、ヨルダン)間で発生した戦争である。多くのマスコミは大きな戦争になると報道した。
瀬島氏は、①イスラエルが勝つ、②戦争は1週間で終わる、③スエズ運河は閉鎖される、と明言。実際、戦争はイスラエルが勝利して、6日間で終わった。「6日戦争」と呼ばれる。
この予測で、伊藤忠に莫大の利益をもたらしたとされる。大方が戦争の長期化を予想して相場を張っていたのに、伊藤忠は短期間で終わるという瀬島氏の読みで相場を張ったからだろう。
この分析で凄いのは、スエズ運河の閉鎖を見通していたことだ。イスラエルの電撃作戦で、戦争が短期間で終わると予測した軍事専門家でも、スエズ運河の閉鎖までは読めなかったという。
的中率の高さから、業務本部はマスコミに「瀬島機関」と称された。
瀬島氏の講演では、どうやって情報を収集しているのかという質問がでる。氏によると、「瀬島機関」とはマスコミが話をおもしろくするために命名した造語で、特別な情報源があるわけではなく、情報源の大半は国内の新聞報道だという。
ただし、新聞を漫然と拾い読みするのではダメ。目的意識をもって、じっくりと読む。そして考える。そうすれば、分かるようになる、ということだった。
この答えには「なるほど」と合点がいった。以来、公表された情報(インフォメーション)を時系列に収集して、読み解く(インテリジェンス)習慣を身につけてきた。今日では、インターネットで公表情報は容易に手に入るので、インテリジェンス力を磨くには、お薦めの手法である。
目的意識をもって、情報を読め。それが瀬島流インテリジェンス力を高める極意といえるかもしれない。
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