西通りに面した不動産が、坪2,500万円とか3,000万円といったことで話題に上る天神周辺の不動産事情。一方で、新宮町のNTT団地跡地やJR新駅開発予定地周辺など新宮町を中心とした東部地区で、ホットな戦いの幕が開けた。来年以降は、さらに注目を集める東部地区。その中心にあるのが新宮町だが、大手デベロッパーの積水ハウスは臍を噛んでいるだろう。大きな魚を逃したからだ。
大規模不動産開発事業への傾斜の理由
世界中の国々のなかで、最も速いスピードで少子高齢化と人口減少が進んでいる日本において、新設住宅着工件数の増加が見込めなくなり、先行き不透明ななか、核家族化はさらに進んでいく。
積水ハウスが本来得意としてきた分野は「大型高価格帯・戸建て注文住宅」であったが、少人数の核家族が住む住宅が増えてくることを考えると、異なった分野での収益源を求めなければならない。それが、都市部における不動産再開発事業への取り組みの始まりであった。
戸建て住宅事業の市場が収縮していくなかで、都市開発事業へのシフト無しでは、企業としての成長が見込めなくなってきていると判断するのも当然である。
しかし、理屈では理解できても、同社には過去に不動産開発事業に取り組み、そのときに仕込んだ不動産がバブル崩壊で大きく資産価値を落とし、減損処理で大幅な赤字に陥って苦しんだ経験がある。
「六甲山開発」などの大規模不動産投資で、同社は01年1月期に2,165億円(総資産の14%)、翌02年1月期には1,335億円(総資産の10%)もの販売用不動産の評価損による巨額特損を計上し、2期にわたり最終赤字に転落したことがある。
皮肉にも、この特損による評価減を行なった途端に、外国人投資家から高い評価を受けて株価が上昇したことが、筆者の記憶に焼き付いている。
同社はこうして、一気に財政基盤を強化していき、ついに06年1月期には有利子負債がゼロになった。
しかし一方で、同社の経営中枢には今でもこのときのトラウマが残っており、ここ数年の土地価格の回復にもかかわらず、同社が仕込む販売用不動産は、都市中心部に絞り込んだ調達を行なってきた。
それが東京、大阪などの大都市部中心地に絞り込んだ開発事業につながっており、ここ数年の同社の大きな収益源となっている。地方中核都市でも、たとえば福岡市では室見川以西の西区の土地は買わないというように、徹底している。
つづく
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