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2008年の注目社長(前) | 東京レポート
特別取材
2008年1月 7日 12:56

住金の筆頭株主になった新日鉄の三村社長


 2008年。新日本製鉄の三村明夫社長(67)は、M&A(合併・買収)戦略の最大のヤマ場を迎える。世界首位のアルセロール・ミタル(ルクセンブルグ)の買収の脅威に対抗して、国内外で提携を進めてきた防衛策の総仕上げが、住友金属工業、神戸製鋼所との経営統合であるためだ。

 新日鉄、住金、神鋼の高炉3社は12月19日、相互に株式を追加取得すると発表した。新日鉄と住金は1,000億円ずつ株式を取得し、事業会社としてそれぞれが筆頭株主となる。

 3社は2008年3月末までに市場で株式を取得。新日鉄の住金への出資比率は5%から9.4%に高まり、現在の筆頭株主である7.5%の住友商事を抜く。住金の新日鉄への出資比率も1.8%から4.1%になり、3.5%の韓国ポスコを抜き事業会社として筆頭株主になる。

 新日鉄と神鋼、住金と神鋼もそれぞれ150億円ずつ株式を追加取得。神鋼への出資比率は、新日鉄、住金ともに3.4%になる。

統合の布石か

 「いよいよ新日鉄が3社統合に向けて動き出した」。業界は色めきたった。

 最大の注目点は、新日鉄が住金の筆頭株主になることだ。

 住金は住友グループの中核で、住友商事が7.5%を保有する筆頭株主。02年に資本提携に踏み切ったことで新日鉄は現在、5.0%を保有する第3位の株主だった。持ち合いを強化した結果、新日鉄が9.4%になり、住商を抜き、筆頭株主に躍り出るのである。

 三井住友銀行が信託口で1.8%、住友信託銀行が1.7%保有しており、住商分と合わせると11.0%。住友グループの一角にとどまるとはいえ、筆頭株主の座を明け渡すことの意味は大きい。

 半ば全面統合を諦めていた新日鉄にとって、JFEを突き放し、アルセロールミタルへの対抗軸を構築する絶好のチャンスだ。新日鉄が住金の筆頭株主になることで、3社の合併・統合は秒読み段階に入ったといえる。

 統合に向けて動いたのは前門の虎(鉄鋼最大手のアルセロール・ミタル)、後門の狼(資源最大手のBHPビリトン)の脅威だった。

ミタル買収の脅威

 鉄鋼業界の指標のひとつが粗鋼生産量。このところ急激な伸びを示していて、世界の粗鋼生産量は10億トンを超えている。そのシェア獲得を目指して合従連衡を繰り広げているのが、世界的な鉄鋼再編の構図だ。

 粗鋼生産量世界一のアルセロール・ミタルは、インド人の大富豪ラクシュミ・ミタル氏が率いるグループだが、それはM&A(合併・買収)の歴史そのものだった。

 インドネシアで丸棒製造の小さな会社から出発し、旧ソ連圏や中南米の鉄鋼会社を次々と買収して規模を拡大してきた。05年、米の鉄鋼大手ISGを買収することで世界一に。06年には、世界2位のアルセロール(ルクセンブルグ)を買収。粗鋼生産量の10%を超えるシェアをもつ巨大鉄鋼会社の誕生だ。

 20%のシェア獲得を目指すミタル氏が、次の標的にしたのが、自動車用鋼板や油田用の継ぎ目なし鋼管といった高級鋼材に強い、日本の大手高炉メーカーである。

 M&Aを繰り返すミタル氏に対して、買収防衛策を打ち出したのが新日鉄、住金、神鋼の3社。3社は06年になって、02年以来進めてきた資本提携を強化。そして08年、新日鉄が住金の筆頭株主に躍り出る。

 かつて日本の鉄鋼業界は、高炉5社と呼ばれた。川崎製鉄とNKKが統合してJFEホールディングスが誕生。それに対抗して、新日鉄と住金、神鋼の3社が相互に資本提携し、新日鉄を中心としたグループを形成してきた。さらに、アルセロール・ミタルの敵対的買収をにらみ、全面統合へ向けて大きく舵を切った。統合が実現すれば、国内の鉄鋼業界は、新日鉄とJFEの2強体制に完全に移行することになる。

寡占化が進む資源メジャー

 世界的な鉄鋼再編に踏み出したのは、鉄鋼の有力ユーザーである自動車は世界的再編が進み、原材料の鉄鉱石など資源会社は寡占化したためだ。

 自動車はトヨタ、GM、フォード、フォルクスワーゲン、ダイムラー、日産=ルノー連合の6大企業グループが80%を生産。鉄鉱石は、リオドセ(ブラジル)、リオ・ティント(英・豪)、BHPビリトン(英・豪)のメジャー3社が75%を生産。その間に挟まれた鉄鋼業界は価格交渉力を失った。

 中国やインドなど新興国を中心とした急激な需要増から資源確保競争が激化。このため、近年では鉄鉱石価格が暴騰。日本の鉄鋼メーカーは鉄鉱石メジャーとの価格交渉で5年連続値上げを呑まされた。鉄鋼はトップのアルセロール・ミタルでさえシェアは10%。シェアが小さい鉄鋼メーカーの足元を見て価格を吊り上げているのが実情だ。

 鉄鉱石メジャーと自動車メーカーを相手とする価格交渉で主導権を回復すべく国境の垣根を取り払ったのがミタル氏だ。ミタル・ショックに押されて鉄鋼業界の世界的再編が始まった。

 一方、資源メジャーは寡占化をさらに強める動きに出た。資源メジャー最大手のBHPビリトンが07年11月、同業のリオ・ティントに買収を提案した。2社が合併すれば、世界の鉄鉱石の35%以上を生産する巨大鉱山会社が誕生。リオセドとBHPビリトンの2社の寡占体制となり、鉄鉱石の価格支配力は更に強まる。

 90年代に合併を繰り返した資源メジャーは寡占体制を築き、価格支配力を握った。1トンあたりの鉄鉱石価格は00年度約25ドルだったが、06年度には約55ドルと倍以上になった。日本の鉄鋼メーカーにとって他の鉄鋼原材料とあわせて1兆円のコストアップとなり、鉄鋼製品への価格転嫁が最終製品への価格転嫁までつながる様相を示している。

 2社の合併に、世界の鉄鋼各社は、鉄鉱石の価格交渉で不利な状況に追い込まれかねないと猛反発。世界市場が買収によって寡占状態となり、競争が制限される可能性があることを重くみた公正取引委員会は、両社が拠点を置く欧州連合(EU)やオーストラリアなどの当局と協調審査に向けた協議に入った。M&Aの見直しを命じさせるためだ。

 前門はアルセロール・ミタルによる敵対的買収、後門は資源メジャーによる圧倒的な価格支配力。それに対抗するためにも、鉄鋼メーカーの規模拡大は不可欠。新日鉄、住金、神鋼の3社統合はなるか。新日鉄の三村社長の正念場である。

つづく


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