公私混同をしない
オーナー社長になってから誓いを立てたのは「公私混同をしない」、「従業員は働きに応じて公平に処遇する」、「ボーナスはまず従業員に」の3つ。当たり前と言えば当たり前だが、中小企業で忠実に実践しているは以外に少ないのが現実ではあるまいか。
独立後の快進撃は業界ではよく知られている。不動産会社から建築会社に転換。さらに下請主体だったのを、地主や投資家にマンション・アパート建設を提案し、建築を請け負う資産運用型提案ビジネスに転身していった。このビジネスは営業力や資産運用ノウハウが必要になるが、薄利の請負と違い、利益率が高い。
単身用マンションなどを建設して、地主や投資家に1棟売りする手法が成功した原因、と石井氏は話す。「とりわけ、シックスさんという優れた会社にめぐり合ったのが最大の要因。その意味で私は運が良い」。㈱シックスの鱒渕龍彦社長は、一棟売りという現在のビジネスモデルを構築できた最大の恩人と言う。
オークスの経営に専念するため、東建設を退社して3年後の大不況の真っ只中、東建設が破綻した。放漫経営もあったが、金融機関に不良債権化した土地を買わされたのが直接の原因だった。「不良債権を押し付けておきながら、バブルがはじけると一斉に手を引いた。つぶれるのは当たり前」。口には出さないが、古巣に対する思いは複雑なようだ。
引き続き経営に当たる
バブル崩壊もバンカー特有の手堅さで乗り切った。「わずかな従業員で細々とやっていたので、土地ブームに巻き込まれずに済んだだけ」というが、金融機関が持ち込むおいしい話に、ある種の危うさを感じ取っていたのだろう。「土地を買うなら3年先の金利まで面倒だと思いましたよ」と振り返る。
「ここまで来れたのは運が良かったのと、周囲の人に恵まれたおかげ」と謙虚な姿勢を崩さない。信条にしているのが、「人から騙されても騙すな」の一言。騙されてもいい、しかし人を騙せば信用を失い再起はできない。「今日まで何とか飯を食えたのも、この一言を信条にしてきたおかげ」と話す。
自慢めいたことをほとんど言わない石井氏が、唯一胸を張るのが、会社創設以来一度も赤字を出したことがないことだ。毎期内部留保も積み上げ、コンスタントに売上高経常利益率3%以上を計上、06年12月期は6%台を記録した。経営もガラス張りで、公私のけじめもきちんとつけてきたと、石井氏は話す。
06年12月、山口県を代表する建築会社である安成工務店に会社を売却した。オークスの堅実経営ぶりと営業力を評価したものだが、石井社長の裏表のない誠実さが大きな理由だったこともたしか。ちなみに買収には、安成のほか福岡を代表する有力建築会社が名乗りを上げた。
手塩にかけて育てあげた会社を外部の企業に手放すことにしたのは、社内に手を上げる後継者がいなかったためだが、「本当に良い会社に買っていただいた」と喜ぶ。石井氏自身は代表権のない取締役会長に退いたものの、従来通り経営に当たっている。「安成さんに対し立派な会社にする義務がある。あと4年は頑張るつもり」。ビジネス人生最期の仕上げに思いを凝らしているようだ。「今の若い人たちはどうも、企業を起こすという気概が足りない気がする」と苦言も忘れなかった。
石井 泰俊(いしい・やすとし)氏 略歴
1937年2月福岡県生まれ。西日本短期大学法学部卒。1957年旧西日本相互銀行(現・西日本シティ銀行)入行、73年1月の大楠(現・オークス建設)取締役、76年3月代表取締役社長、06年1月から現職。
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