福岡市は1月21日、建築物の耐震強度の計算に使う「地震地域係数」を国の基準より厳しくする条例改正案を市議会特別委員会に報告した。
市によると、福岡県の係数は全域が0.8だが、これを関東や東南海地域と同じ1.0にして建築物の耐震性強化を進める方針。係数上乗せは、静岡県が指針で定めているが、条例化は全国初となる。
さて、この記事を一見すれば、基準値を上げることでより安全な建築物をつくる、という大義名分があるが、これは改正建築基準法と同様、行政側(今回は福岡市)の思惑がどうやら先行しているようだ。
先日、【続報】福岡県篠栗町のマンション訴訟にて、福岡市が限界耐力計算を用いた場合の層せん断力係数(Ci)の1.25倍以上の割り増しを指導していたが、それが「基準ではない」こと、そしてマンションオーナーに余分な負担を強いていたことを報じた。
つまり、この訴訟を通じて福岡市は、層せん断力係数(Ci)を1.0に戻さなければいけない状況に立たされているのである。しかしそうなると、これまで30年もの間指導してきたことを、福岡市自身が否定しなければいけないということになる。
それを回避するために今回の条例改正案が報告された、というのが事の真相のようだ。 要するに、「地震地域係数」を0.8から1.0に増やすことで、層せん断力係数(Ci)が1.0に減っても、実質はプラスマイナスゼロとなるため、1.25という数値を正当化できるということである。
仮に百歩譲って、福岡市が「住民のために」作成したとしよう。しかし福岡市は、訴訟の公開討論の場にマンション管理組合の人を立ち会わせることを全面的に拒否しており、「住民のために」動いているとは思えない(自分たちが絶対に正しいならば住民を呼ぶはず)。やはり「保身のために」ととられても致し方ない面があるのである。
あくまで法的拘束力のない努力目標という名目ではあるが、それがさも法令で定められているかのように扱われる可能性は十分にある。これによって、さらに福岡市の建築業界に悪影響を及ぼすことが懸念される。
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