5年連続で売上減少
九州百貨店業界が今年直面する最大の課題は、博多阪急開業に対抗できる店づくりと収益体質づくりだ。博多阪急は4万4,000m2の売場を開設、初年度400億円の売上高を目指す。売場面積は天神3百貨店中、岩田屋の4万8,500m2より小さいが、博多大丸と拮抗し、三越を上回る。売場面積以上に他社が脅威に感じているのは、JRのターミナル駅という好立地と、周辺での商業施設の集積が進み、天神と対抗できる新たな核になる可能性を秘めていることだ。
07年の九州・沖縄の百貨店売上高は5年連続の減少になることは必至。06年は4年前に比べ762億円と10%も減った。福岡県だけだと、06年は3,550億円で、やはり280億円強と7.4%減った。市場縮小が続くなかでの阪急の進出は、他県から集客を増やし福岡地区百貨店にはプラス効果も予想されるが、シェア競争を一段と激化させることは確実。
業界では4店が採算的に並び立つのは難しく「3店が精一杯」というのが共通した認識。3つの椅子をめぐって生き残り競争にならざるを得ない。
阪急進出に備えた体制づくりに、いち早く取り組みを開始したのが博多大丸。昨年2月から3年がかりで、総額40億円をかけ大がかりなリニューアルに着手。これまでに婦人靴売場を増強したのをはじめ、「ルイ・ヴィトン」「ブルガリ」などの海外高級ブランドを増床、11月には新たに「グッチ」を導入した。これに続き、今年3月から4月にかけ、紳士・婦人服売場を改装する。利益率の高い自主編集売場を大幅に増やすのが特徴で、「ブランドに依存せず、完成度が高く価格のこなれた商品を揃え、差別化の切札にする」(同社)のが狙い。今春の改装で全体の74%を完了する。
計画では、10年2月期に天神店の売上高を07年2月期に比べ10%増の772億円に引き上げ、営業利益率8%を目指す。収益力を高めるため、昨年から人件費を中心に構造経費の見直しに着手、業績に応じて給与・賞与が連動する成果給制度を導入した。
岩田屋は昨年8月、阪急進出を見据えた第1弾の改装に踏み切ったのに続き、11年春までに順次実施する。8月の改装では伊勢丹本店の売れ筋ブランドと商品をそっくり持ち込んだのが奏功し、前年の売上を上回って推移しているという。最終的な照準を11年春に合わせ、この段階で大がかりなリニューアルを行なうとしている。
ただ、収益水準は改善が進んでいない。08年3月期の営業利益率見込みは1.6%で、05年3月期からスタートした中期3カ年計画で掲げた「最終年度に2%超達成」の目標には届かない。売上高に占める人件費比率が9%強あり、ほとんど改善されてないのが大きな原因。経営改革で先行した博多大丸が6%台なのに比べると大きな開きがある。高コスト構造をひきずったままだと、阪急開業による競争激化で収益水準が低下することになりかねない。
苦しい地方百貨店
阪急進出の影響を最も受けるのはむしろ、大分のトキハ、熊本の鶴屋百貨店、くまもと阪神、鹿児島の山形屋の県外勢という見方がある。地場経済の回復が遅れているうえ、九州新幹線全通で顧客の一部が福岡に流出することが予想されるためだ。鶴屋を除くと収益基盤は弱く、体質改善が遅れている。商業地としての魅力に乏しいため、郊外型ショッピングセンターに客を奪われやすいのも弱点。
九州の地方百貨店が業界再編の対象になることは短期的には考えにくいが、市場縮小に対応できず業績低迷が長期化するようだと、大手主導による「救済型再編」というケースは起こりうる。トキハは昨年、減損会計適用で債務超過転落の危機に直面、増資で乗り切ったものの、再度の赤字転落は許されない。厚い消費基盤を持つ福岡地区百貨店よりも地方百貨店の置かれた環境は厳しい。
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