持ち株比率を高める奇策
コムスンとグットウィルが行政処分を受けても、折口氏はGWGの会長にとどまる。バッシングを受けても経営に執着する理由がある。折口氏の個人資産管理会社の折口総研が巨額な借金を抱えているためだ。GWGの株価が戻らなければ、最悪、折口氏が自己破産することも考えられ、深刻な事態。辞めるわけにはいかないのだ。
折口総研はGWGの筆頭株主だが、その経緯からして投資家を欺いたものだった。2005年に行なったある奇策によって、GWG株を手に入れたのである。
この年は、ライブドアや村上ファンドによる企業買収が話題を集めた。折口氏は、10%程度の持ち株比率があったが、その程度では買収の防波堤にならない。買収防衛策として、個人資産管理会社である折口総研の持ち株比率を高めることを狙った。
金融のプロが考案したGWG株の入手作戦は、かなりややこしい仕組みである。
05年9月16日。GWGは大和証券SMBCヨーロッパにMSCB(転換価格修正条項付新株予約権付社債)を割り当てる。この社債の権利を日本の大和証券SMBCが持つ。
そして、大和証券SMBCは折口総研と、247億円のデリバティブ契約を結ぶ。そのスキームの詳細は複雑なため省くが、折口総研は、みずほ銀行から271億円の融資を得て社債の権利を買った。
06年2月7日、折口総研は社債を株式に転換。その結果、折口氏個人を含めた持ち株比率は、それまでの18.3%から32.1%に高まった。
GWGは、社債発行の目的はコムスンの施設建設費用と発表していたが、実際は折口総研の持ち株比率を高めるためだった。株主を騙していたのだ。
さらに、GWG株を買い増して、持ち株比率は33.6%に。株主総会で3分の2以上の議決が必要な重要案件を拒否できる、大株主の地位を確保したのである。
折口総研の窮地
だが、舞台は暗転した。コムスン事件で株価は下落。07年1月に11万3,000円の高値をつけていた株価は約5分の1まで値下がり。融資の担保に差し入れていたGWG株は担保割れした。しかも、借入金の利息は、株式の配当から支払っていたが、GWGが無配に転落し、利息の支払いさえ苦しい状況になった。
真っ先に回収に動いたのがドイツ銀行。折口総研が借入金を返済できなかったため、ドイツ銀行は担保にとっていたGWG株で回収。その結果、9月には折口総研の持ち株比率は26.6%に低下した。
271億円を融資したみずほ銀行も、折口氏が住んでいる田園調布の豪邸や長野・軽井沢の別荘を担保に押さえて回収に入った。かなりヤバイ資金操作に融資したみずほ銀行も問題だが、とにかく271億円を回収するのに必死なのだ。
その最中に生じたのが、今回のコムスンの事業停止処分。株価の一段の下落は必至だ。
折口氏個人と折口総研名義のGWG株は銀行の担保に入っており、これ以上株価の下落が進めば、銀行は担保にとったGWG株を投資ファンドに売却して回収を図るのは目に見えている。
身ぐるみをはがされる恐怖。折口氏は、地獄の1丁目に足を踏み入れたのである。