すべての事の発端は、2004年6月に福岡県篠栗町にある「エイルヴィラツインコートシティ門松駅前イーストサイド」の管理組合が、「設計や施工にミスがあり、構造上の安全性が確保されていない」として、販売元の作州商事(福岡市)、施工主の香椎建設(同)、設計者のニューアート建築設計事務所(同)を福岡地裁に提訴したことである。建替費用や代替住居確保費用など、総額約10億8,000万円の支払いを求めた。
そのような折、05年11月に姉歯事件が起こった。その直後、同じマンションの別棟「ウエストサイド」の管理組合が、構造計算のミスを理由に、先の三者に加えて、構造計算を担当していた仲盛氏に対して建替費用など約9億2,800万円の損害賠償請求訴訟を起こした。
ひとつ指摘しておきたいのが、「イーストサイド」裁判については構造計算そのものがメインの問題ではなかったが、姉歯事件後の「ウエストサイド」裁判では、突然、構造計算がクローズアップされたことである。
さらに、構造計算書偽装問題の一連の調査として、国交省は姉歯被告と関わりがあった木村建設の施工物件の構造再計算を行なうよう、各自治体に通達。これを受けて、福岡市も調査に乗り出した。
06年2月3日、仲盛氏が以前経営していたサムシングが構造計算を行なった賃貸共同住宅4件中3件について、再計算を依頼されていた(社)日本建築構造技術者協会(JSCA)から市に対して、偽装があったと考えられると伝えられた。
これを受けて06年2月7日、仲盛氏は福岡市に呼ばれて事情聴取をされた。その際、福岡市側から「お互いの見解をすり合わせてから発表します」という約束をされていた。
しかし翌8日、何の前触れもなく突如「仲盛の構造設計に問題がある」と福岡市が公表した。「あの日は誕生日だったこともあり、一生忘れられない日になった。今考えれば、あれは国交省の指示だったのだろう。木村建設の物件は、我々が直接受注して手掛けたものではなかったが、無理やり姉歯問題とリンクさせられた」と氏は述懐する。
さらに、「問題が起こってしまった以上、設計が悪いか施工が悪いかという話になるが、私の構造計算は間違っていないという自信がある。やはり施工に問題があったとしか考えられない」と主張する。
こうして、仲盛氏は福岡市への提訴を決意し、誕生日という運命的な日が、仲盛氏の孤独な「戦い」の日々の始まりとなったのである。
つづく
[プロフィール]
仲盛 昭二 (なかもり しょうじ)
協同組合 建築構造調査機構 一級建築士事務所
参事(技術担当)
1951年2月8日、福岡市博多区生まれ。
九州産業大学卒業後、日本建設(株)に入社。
1978年、独立し、昭和設計事務所を創業。
1980年2月、設計工房サムシング(株)を設立し、同社代表取締役に就任。
2002年9月、サムシング廃業。
その後の現在に至るまでの詳細は、本文にて紹介。
▼共同組合 建築構造調査機構
http://www.asio.jp/
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