経済合理性に対峙する航空政策
EU域内では、モノ、サービス、資本、人の自由な移動が保障されている。また加盟国国民は、EU域内のどの国でも会社を設立し、営業活動をすることができ、このことは航空運送事業も例外ではない。80年代後半に始まった3次にわたる自由化措置によって、EUには単一航空市場が形成され、それまで加盟国の航空会社が運航サービスを提供できるのは、自国を発着地とする航空路に限られていたが、今では自国を経由しない航空路でも営業ができるようになっている。
単一航空市場ができたことで、EU域内では旅客と貨物の両面で新規参入やM&Aが促され、価格やサービスなどの競争条件が格段に向上し、利用者をはじめ、欧州経済全体が大きな恩恵を受けている。今日、日本から年間400万を超える人々がEU加盟国を訪問しているが、一方、EU域外地域との間の国際航空サービスに関しては、最近まで加盟国ごとの政策が用いられ、EUの対外的な共通航空政策は確立されていなかった。
しかし、EUの国際航空サービスを取り巻く状況は、02年11月の欧州司法裁判所の判決(「オープンスカイ判決」)により一変した。この判決は、加盟国が第3国との間で結んでいる二国間航空協定のなかの、航空会社の国籍と経営支配に関する規定が、EUの基本条約にある「営業の自由」条項に違反するとした。つまり、協定当事国2カ国のいずれかの国籍を持つ航空会社以外は、それぞれの領土内で離発着できないと定めた国籍条項を違法とし、そうした内容を含む二国間航空協定はEU法に適合するよう改定されなければならない、とした。またこの判決は、コンピューター予約システム、航空運賃および発着枠がEUの権限に属する、との判断も下した。
オープンスカイ判決が、前述のとおり、国際航空サービス分野におけるEUの権限を明確にした結果、EUの国際民間航空に関する政策は、新たな展開を見せることになる。EUは03年6月のEU・米首脳会談での合意に基づき、米国政府と協議を行ない、昨年11月にはEU・米航空協定の基本合意が成立した。同協定では、国籍条項が撤廃されただけでなく、包括的国際航空協定として、航空運賃、発着枠、予約システムをはじめ、市場アクセス、競争規則の効果的適用、保安と安全に関する条項などが盛り込まれた。新協定が発効すれば、EU加盟各国が米国と個別に結んできた従来の二国間航空協定は、EU・米航空協定に取って代わることになる。これにより、EU・米国間に共通航空空域というものが誕生し、豊富なサービスの選択肢と低価格の航空運賃といった便益がもたらされると期待されている。
しかし、ここで述べたいのは、「航空自由化」についてではない。それに伴って、規制緩和と航空運賃値下げ競争が激化することが予測されるなかにあっても、「経済合理性」よりも、「環境」に対する価値に重きを置く航空政策を採る国があることに注目してみたい。
スウェーデンは2000年、先に導入された「環境税への移行」を拡大することを決定した。
これにより、10年間で33億ユーロを投資し、労働にかかる課税を引き下げる代わりにエネルギー税を引き上げることになったのだが、その課徴金のなかでも出色なのが、「民間航空への着陸料」だ。民間航空は着陸料を支払わなければならないが、その料金は一律ではなく、航空機の排気量と騒音によって異なるというものだ。
ストックホルムから北42kmにあるアーランダ空港では、航空機のエンジンからの離着陸時のNox(窒素酸化物)、HC(炭化水素)の平均排出量に応じ、最大30%の着陸料の割り増しを行なっている。また、騒音対策としても、長期的に閾値限界を超える地域での住居新築の防止、閾値限界を超える住宅が増加しないよう空港における発生源対策を講じることとし、空港にしては珍しいISO14001(環境マネージメントシステム)の認証を取得することとしており、現在作業中である。
一見、「経済合理性」とは相反するこの「着陸料」の設定だが、「環境に配慮する都市」としてのストックホルムの価値を向上させている。
スウェーデンの取り組みが今後どのように広がっていくか。近年の地球温暖化にともなう、気候変動への関心の高まりをみれば、各国の空港政策にも早晩取り入れられるのではなかろうか。「環境」という新しい(というより、遅まきながら築かれつつある)価値が、空港政策にまで影響を及ぼしつつあることは、忘れてはならないのではあるまいか。
未来の試金石たる「福岡空港」を
日本において、人口と税収が増え続ける時代はとうに終わっている。現在は、人口は減り、借金(債務)が増え続ける時代だ。「地域」と「環境」という新しい概念、新しい価値観に基づいたコンセプトに基づいた都市のあり方と、それを支える空港のあり方は、時代の変遷によって変えていかなければならない。欧州での事例は、わが国にとっても参考になるはずだ。
福岡空港が、新しいものになるのか、それとも、既存ストックを活用するものになるのかは、いまだ見えない。しかし、新しい日本の未来を拓く、「ナショナル・ミニマム」ではない、「ローカル・オプティマム」な航空政策の試金石たる空港となることを祈りたい。
おわり
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