地域の総合力の発揮へ
これまで高木氏の半生を、家業の継承から事業の発展、そして病気と事業の解散、病気からの回復とNPO活動というかたちで歩みを追ってきた。高木氏の全てを十分に言い尽くしてきたとはとても思えない。とりわけ病気との闘いや事業解散に至るなかでの氏の深奥に迫ることができたとは言えない。また、現在のNPO活動は、家族一緒で進められているということだが、その点もほとんど紹介することはできなかった。最終回にあたり、高木氏のこれからの抱負や事業の展望などを紹介してこの稿を閉じることにしたい。
NPOとして今後力を入れていきたいことは、長期のインターンシップを企業、学校に提案していきたいということだ。インターンシップはいま多く行われているが、本当に企業のことを知ってもらう、また企業としても人を知るためには1年間は必要であると氏は語る。これをクリアするためにはお金の問題もあるし学校や企業の理解も不可欠である。これをクリアすることで本当に地域に根ざした企業と人材が育っていくことを氏は願っている。そしてNPO自身の会員を拡大し財政基盤をしっかりしたものにしていきたいとのことである。
ご承知のように日本全国でいまNPO法人の数は35,000、福岡でも1,100を超しているが、財政基盤が豊かなところは限られている。その点で私からも読者の皆さんへ「NPO法人キャリア教育サポート」会員への加入や寄附金などをお願いしたい。
高木氏は(有)パルという会社で、新規事業の立ち上げ支援や人材育成支援などの事業も進めている。最近でも甘木市でベーカリーの立ち上げコンサルも成功されている。
こうした高木氏の活動は、「NPOのような企業、企業のようなNPO」とも言われている社会起業家を思わせる活躍振りである。その軸足は地域にあり、その視線は人であると言うことができよう。
日本にはリタイヤした経営者が寄附や、新たな社会事業を起こすことが非常に少ない「企業文化」がある。財産を自分で抱え込んでしまい、社会への還元は稀である。NPOなどとの連携も含めた企業活動で地域を活性化してもらいたいものだ。
取材を通して思ったことだが、高木氏は、働く目的は収入を得るための手段としてだけでなく、職場を自己実現の場として考え、地域が抱えている問題や課題に「志」を持ってチャレンジしているということだ。それは凡百の「再チャレンジ」という言葉ではなく、「人生をいかに深く生きるのか」というその問いに自ら答を出すためにいろいろな事業に挑戦していることに感銘した。
地域に根ざした企業と人材が真に地域の再生と総合力を発揮することで、住みやすいものになっていくそういう気がする。
高木氏の歩みを記していくなかで、私のなかにあった経営者のイメージや経済・社会のあり方、固定化しがちな価値観を再考するきっかけになったことに感謝を申し上げたい。
最後に、高木氏のますますのご活躍とご健勝をお祈り申し上げ、本稿を閉じる。
[プロフィール]
高木 教光 (タカキ キョウコウ)
NPO法人 キャリア教育サポート 専務理事
九州産業大学 非常勤講師
1951年 福岡市博多区生まれ
1972年 九州産業大学 産業経営学部 卒業
NPO法人キャリア教育サポートを設立 地場企業の経営者と教育界の方々との連携を行い、青少年の健全育成と地場企業への就職支援事業、教育事業やイベントを開催 福岡地区の大学生の自立と 起業支援事業を行う。