政界はすっかり与野党対決の緊張感を失った。
民主党はまだ表向き国会で道路特定財源の無駄遣い問題を追及し、福田首相や冬柴鉄三・国土交通大臣は言い訳答弁に四苦八苦しているように見えるが、当の民主党も「ガソリン値下げを争点に解散・総選挙に持ち込む」(菅直人・代表代行)と意気込んでいた頃の対決姿勢はない。多少の不確定要素はあっても、最終的には、予算関連法案の修正で自民、民主が”手打ち”してガソリン税値下げ問題は玉虫色の決着になる可能性が強い。
その間にも、両党は麻生太郎氏を会長とする「地方政府IT促進議連」をはじめ、社会保障関係の超党派の議員連盟などを次々に発足させ、「政策協議」による協調路線に踏み込むムードが高まっている。
だからといって、そうした動きが単純に「大連立」につながっていくとはいえないようだ。むしろ、皮肉なことに、自民、民主両党の内部には、福田首相と小沢一郎・民主党代表による大連立をつぶすために提携する動きも出てきた。
◆9月の民主党代表選は「小沢再選」に波乱
民主党内の関心はいまや総選挙より9月の代表選に移っている。
「ガソリン税の対決が不発なら早期解散はない。福田首相は解散をサミット後、秋以降に先送りするつもりだ」(民主党国対幹部)
と、見ているからだ。
そうなると、9月の代表選挙で小沢代表がすんなり再選されるかどうかで政界の流れは大きく変わってくる。
民主党内では、菅代表代行、鳩山由紀夫・幹事長ら現執行部側が「政権交代のためには小沢さんしかいない」と早々と小沢再編支持を打ち出し、大勢は決したかにも見える。
だが、仙石由人氏、枝野幸男氏らを中心とする反小沢勢力は、「大連立を望んだ小沢に政権交代をいう資格があるのか」と反発して対立候補擁立を目指している。最有力の対抗馬は岡田克也・副代表だ。党内の信望がある岡田氏が出馬し、小沢氏と距離を置く野田佳彦グループなどが岡田支持に回れば、旧新進党のような党を2分する戦いになる。
「その場合、小沢氏は嫌気がさして代表に出馬せず、かわりに前原誠司を担いで岡田に対抗する可能性もある」(保守系幹部)
党内ではそうしたシナリオまで語られている。反小沢派の仙石氏や枝野氏は先日、自民党の山崎拓・元副総裁、加藤紘一・元幹事長と一緒に韓国を訪問したが、それも「代表選後の党分裂、政界再編をにらんだ布石ではないか」との説もあるほどだ。
◆小泉と安倍の活動再開の狙い
福田首相の足元にも火がついている。
自民党内ににわかに浮上した「人権擁護法案」提出問題が発端だ。差別禁止のために国に人権委員会を設置し、人権侵害を救済するというものだが、報道規制など「言論の自由」に反するという理由で自民党のタカ派に反対論が強く、これまで何度も廃案になってきた。とくに小泉ー安倍政権はこれを完全につぶした。
それがハト派の福田政権になると、自民党では同法案の成立を悲願に掲げる古賀誠・選対委員長の後押しで党人権問題等調査会(大田誠一・会長)が議論を再開。今国会に法案提出の構えを見せている。
「民主党も法案に賛成の姿勢だから、国会に提出すれば成立の可能性が強い。これが最後のチャンスだろう」(古賀派議員)
ところが、これに猛然と反発したのが、安倍晋三・元首相、中川昭一・元政調会長らの「真・保守政策研究会」や若手の「伝統と創造の会」など自民党の右派勢力だ。
とくに退陣以来、政治活動を”自主謹慎”していた安倍晋三・前首相は公然と人権擁護法案反対の勉強会に出席し、活動を再開した。
さらに小泉純一郎・元首相も沈黙を破って2月14日に沖縄・宮古島を訪問。首相時代に力をいれたバイオ・エタノール構造特別区推進をアピールした。
「2人がこの時期に活動再開したのは偶然ではない。小泉さんも安倍さんも、福田政権が構造改革路線を棚上げしていることに業を煮やして立ち上がった。福田おろしへの第一歩と考えていい」
自民党の閣僚経験者は「波乱」を予言する。