インターネット業界は世界的変革期を迎えた。ソフトウェア世界最大手の米マイクロソフトが、インターネット検索世界2位の米ヤフーに対して、総額446億ドル(約4兆8,000億円)というとてつもない金額で買収を提案して火蓋を切ったネット再編劇。ヤフーが買収提案を拒否、ネット検索世界1位の米グーグル、メディア大手の米ニューズ・コーポレーションがヤフー争奪戦に参入して乱戦模様だ。攻防が長期化の様相を呈する中で、正念場を迎えたのが、ソフトバンクの孫正義社長である。
3トップとは旧知の間柄
ソフトバンクは日本ヤフーの最大株主で、41.09%を保有している。米ヤフーの持ち株比率は33.42%。日本ヤフーの親会社は、米ヤフーではなく、ソフトバンクなのだ。マイクロソフト(以下MSと略す)が米ヤフーを買収したとしても、日本ヤフーまでは、手に入れることはできない。ソフトバンクが掌握している日本ヤフーとの提携を考えれば、双方とも孫社長の支持が必要としているということだ。
しかも、孫社長は米ヤフーのジェリー・ヤンCEO(最高経営責任者)はもちろん、MSのビル・ゲイツ会長、ニューズのルバート・マードック会長とも、随時電話をするほど親しい仲だ。
米ヤフーのヤン氏は、スタンフォード大学大学院在学中に趣味で始めたインターネットの情報検索をビジネスにまで押し上げた学生起業家。日本のインターネット時代の到来にもっとも貢献した人物の1人といってよい。というのは、1995年10月に「面白い会社がある」と紹介されたソフトバンクの孫正義氏が即座に2億円を出資していたからだ。ヤフーは同年4月に設立されたばかりで社員はたった2人だった。
これが孫氏の運命を変えた。孫氏は米ヤフーと提携し、グループの中核企業である日本ヤフーをつくりあげた。その後、米ヤフーには最大で112億円、35%強を出資。ソフトバンクが業績悪化したとき、米ヤフー株の売却で乗り切った。米ヤフー株を保有していなければ、現在のソフトバンクはなかった。今でも3.9%を出資している。
ゲイツ氏との付き合いも、そのころだ。ゲイツ氏に面会を求めた孫氏は、「パソコン・ゲームの開発・販売会社をつくらないか」と呼びかけ、1995年7月にゲームバンクを設立した(出資比率はソフトバンク6割、MS4割)。
「メディア王」マードック氏とも親しい。両者は手を組んで、1996年6月にテレビ朝日(全国朝日放送)株を取得した盟友だ。受験出版の旺文社の子会社、旺文社メディアが保有する21.4%のテレビ朝日株を孫=マードック連合が417億5,000万円で取得し、筆頭株主に躍り出た。ベンチャーの旗手と世界のメディア王の連合軍がテレビ朝日を買収したというので、大騒ぎになった。
9ヵ月後、テレビ朝日株は親会社の朝日新聞社にすべて売却する形で一件落着。テレビ朝日株の買い占めは、一介のベンチャー起業家であった孫氏の知名度を、一気に全国区へと押し上げた。
米MSや米ニューズによる米ヤフーの争奪戦で、3社のトップと旧知の間柄の孫氏は、自社に有利な流れを引き寄せようと動いているのである。
つづく
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