◆「民主党重鎮」騒動の裏
「日銀も、道路も私がなんとかする」
福田首相はグランドプリンスホテル赤坂の中国料理店「李芳」で額賀福志郎・財務相、谷垣禎一・政調会長らを前に精一杯強がって見せた。
日銀総裁人事が民主党の反対で不同意となり、総裁空席が決まった日の夜である。
「民主党重鎮に騙された」
という問題の発言が総理の口から飛び出したのもその会合だったが、責任転嫁というものだろう。
「重鎮」には諸説あるが、「渡辺秀央・元郵政相らしい」(民主党幹部)との説が有力。自民党離党組の渡辺氏は民主党内でも反小沢派の急先鋒で、旧中曽根派時代に同じ釜の飯を食った伊吹文明・自民党幹事長と、日銀総裁人事で情報交換をしていたとされる。
もっとも、民主党内からさえ、「離党予備軍」とみられている渡辺氏の情報を福田首相が真に受けていたとすればあまりにお粗末。否、そもそも「民主党重鎮」に騙されたというのは与党向けの見え透いた弁解だろう。
日銀総裁が空席になった真相はまるで違う。
民主党が黒田東彦氏や渡辺博史氏など財務官経験者なら「同意できる」と助け舟を出したのに対し、福田首相は、町村信孝・官房長官や自民党幹部に、
「民主党が名前を出した人物なんか総裁にできるか」
そういって”妥協”を突っぱねたのである。
無用な意地と面子にこだわって同意されない総裁候補を提案し続けたのは福田首相の方だった。それを今さら、「民主党の考え方がわからない」とはよく言えたものだ。
◆ガソリン「3分の2」強行なら総辞職
ところが、その福田首相は「総裁空白は絶対につくらない」と言っていたにもかかわらず、2回不同意にされただけで新総裁の提案を当分棚上げし、今度は道路特定財源問題での法案修正を優先させると与党に指示を出した。
「泥縄すぎる。日銀総裁と法案修正は同時にやれるはずだが、財界人の中にも泥舟の福田首相に手を貸して火中の栗の総裁を引き受けようという者はいない。総理はすっかり日銀人事をやる気を失ったようだ」(自民党国対幹部)
その予算関連法案の修正提案も、民主党に協議を一蹴され、4月1日からガソリン税の暫定税率の期限が切れて価格が大幅値下げされるのは確実の情勢だ。
自民党内からも火の手があがり始めた。
福田首相や谷垣政調会長は、ガソリン税の無駄使いには国民の批判が強いことから、暫定税率を衆院の3分の2で再可決するためには、たとえ民主党が乗ってこなくても、与党で修正した上でなければ国民の理解が得らずに政権がもたなくなると見ている。法案を与党だけで修正するとなると、また衆院から審議のやりなおしとなり、再可決は5月末か6月にずれ込む。
しかし、自民党の道路族からは、「そんなに時間はかけられない。原案のまま4月28日に再可決するしかない」との強行突破論が強い。当然、民主党は福田首相の問責決議案をぶつける。
「いったんガソリン価格が下がれば、再可決は難しいのではないか」
自民党の実力者、中川秀直・元自民党幹事長までそう言い出した。
「4月28日に再可決を強行すれば福田政権は総辞職に追い込まれる。なんとか政権を秋まで延命させたい中川さんは、暫定税率はあきらめるしかないとみている。死に体にはなるが、サミットを花道に退陣させようということだ」(町村派幹部)
日銀総裁人事で敗北し、暫定税率も撤廃となれば、福田政権は総退却だが、洞爺湖サミットの議長だけは務められる。就任以来、何の実績もない福田首相は”最後の名誉”を取るか、それとも再議決で玉砕の道を選ぶのか。