生産ラインを一括請負
若山氏が目をつけたのが製造業に特化した業務請負である。メーカーが業務請負を利用するのは、賃金の抑制と生産の変動に合わせて人件費を調整できるためだ。正社員は仕事が減っても抱えなければならないが、請負業者は解約できる。派遣社員の代用のような業務請負では、景気変動の調整弁にされやすい。そこで、簡単に解約できないように、30人以上のロットで、生産ラインを一括受注する契約にした。
いまでは、大手電機メーカーから製造工程の一部を一括受注、約180工場に約6000人の技術者を送るまでになった。主力は半導体製造装置の操作を担当する技術者である。
では、GWGの筆頭株主になった狙いは何か。
GWGが買収したクリスタル
GWGは、本業である日雇い派遣に回帰して再建をはかることになる。借金返済のために買収してきた企業は売却される。最大の焦点が、2006年10月に買収した製造業務請負のクリスタル(現グッドウィル・プレミア)である。
GWGの折口雅博会長(当時)は、偽装請負で行政処分を受けたクリスタルを手に入れるために、2つの投資ファンドを介する複雑怪奇な手法を使った。買収価格は883億円。クリスタルのオーナーが手にしたのは500億円。差額383億円は誰に渡ったのかと疑惑を招いた買収だった。
買収資金を全額供与したのがみずほ銀行。同行は、折口氏の資産管理会社、折口総研が、これまた複雑なスキームを使ってGWG株を取得した資金270億円も融資していた。一連の不祥事で、これら融資は不良債権化。GWG向け融資の責任を取り、全支店を統括する最高責任者であった野中隆史・みずほBK副頭取がトップレースから脱落、みずほ信託銀行社長に転出した。野中氏は、前田晃伸・みずほフィナンシャルグループ社長の後継者として、旧富士銀行勢が押し立てた次期首脳の最有力候補だった。
みずほは、GWGから手を引く。みずほ銀は、約1,000億円の貸出債権を約400億円で米投資ファンドのサーベラスと米大手証券のモルガン・スタンレーの2社連合に売却。2社連合は、買い取った債権のうち155億円を優先株に転換、普通株による45億円の普通株を引き受けて経営権を握った。3月11日付けで、折口会長は辞任した。
旧クリスタルの受け皿狙いか
サーベラスら2社連合が再建のカードとして切ると見られるのが、旧クリスタルのグッドウィル・プレミアの売却だ。2社連合が買い取った400億円の債権回収と、GWGが抱える1,000億円の借金を減らすことができるからである。
そこに、UTが筆頭株主になった若山氏の狙いを読むことは可能だ。旧クリスタルは、若山氏が製造請負のノウハウを取得するために勤めた会社。そのやり方を知るにつけ、管理体制のしっかりした会社をつくれば勝ち抜けると、常に反面教師にしてきたのがクリスタルだった。
旧クリスタルの連結売上高は5,900億円。偽装請負による行政処分、GWGの買収で、大幅に縮小しているとはいえ、今日でも、最大手であることには変わりない。旧クリスタルが手に入れば、UTは国内最大の製造請負会社になれるのである。UTが筆頭株主になったのは旧クリスタルの受け皿を狙ったのではないか。
GWGの筆頭株主に躍り出たUTは「小が大を呑む」M&Aに成功できるか?