公職選挙法に抵触の可能性も
吉田宏福岡市長が平成18年11月の市長選挙時、暴力団関連企業から事務所を賃借し、民主党福岡県連に又貸ししていた問題は、市長の資質を問われると同時に、法的問題も内包していることが判明した。
選挙運動費用収支報告書には記載なし
指定暴力団関連企業から吉田市長の個人名で借りたとされる該当のビル1階について、不思議なことに市長の選挙運動費用収支報告書には、借り上げについての記載はない。記載があるのは「選挙事務所の賃料」についてだけである。民主県連に貸したとされる賃貸物件についての記載は一切ない。
しかし、政党である民主県連が平成19年になって市長側に賃料を支払ったとするなら、それは明らかに政治活動に関する支出であることを証明している。
吉田市長が問題のビル1階を借りたのが「市長選挙のため」であったとするなら、その支出は、まぎれもなく「選挙運動費用」ということになるのではないか。その証拠となる事実が残されていた。
県連使用の架設電話数十台分
支払いは吉田宏候補が行っていた残された領収書
民主党県連が使用した問題のビルには、架設電話が数十台設置されていた。
実は、その架設費用や電話代は、候補者である吉田宏氏が「選挙運動費用」として計上していたのである。市長選挙当時や、その後の取材を通じて、選挙事務所での電話作戦、常用電話、そして問題のビルに設置された電話の台数を確認している。
中央区内のコンビニで選挙事務所の電話代と問題のビルに設置した電話代を、まとめて支払ったことを証明する「領収書」が残っている。
県連所属の議員が、その架設電話で、選挙支援の電話をかけていた場面を目撃した関係者も多い。
選挙事務所は1箇所しか設置することが出来ないが、これではまるで選挙事務所が2箇所あったのと同じである。
問題のビル1階を民主県連が使ったにしても、「市長選挙」で使用した以上、事務所の借り上げ料は選挙運動費用として計上すべきではないか。それが無いということは、公選法上義務付けられた記載を怠ったことになる。ここでまず、「不記載」ということで、公選法に抵触する一つ目の可能性が指摘されよう。
ただし、問題のビル1階の賃貸料を選挙運動費用として計上すれば、選挙事務所が2箇所であったことになり、これはこれで「選挙事務所は1箇所」と定めた公選法に違反することになってしまうのである。
吉田市長や民主県連は、袋小路に入り込んでしまったようだ。
民主県連「市長選選対事務所」に違法性も
県連が問題のビルを正式に使用し始めるのは、選挙の告示日からである。残された当時のニュース映像を確認すると、「民主党県連が告示日に合わせて急遽、選挙事務所を設置した」とされており、問題のビルに入っていく民主党の参議院議員や市議会議員の姿が残っている。また、県連会長以下の各級議員が、このビルの1階で会議を開いている模様も映し出される。
ここでさらに、別の公選法上の問題が浮上する。
民主党県連は、どのような法的根拠を持って「告示に合わせて」事務所を借りたのか、ということである。
一般には理解しづらいのだが、民主党は吉田市長を推薦していたにもかかわらず、選挙期間中、その政治活動を大幅に制限される。「公認」と「推薦」には雲泥の違いが生じるのだ。
無所属候補の場合、市長選期間中に一定の範囲で政治活動が許されるのは「確認団体」だけである。そして、吉田市長にとっての確認団体は「ふくおかFANクラブ」という政治団体だったのである。
例えば、吉田ひろし候補の街宣カーとともに、市長選期間中、市内を走り街頭での宣伝活動ができたのは「ふくおかFANクラブ」の街宣カーだけで、民主党の広報車は活動できないのである。政治活動用のビラも民主党では頒布できない。(確認団体は2号まで可能)
従って、民主県連が、選挙の告示日に合わせ「選挙事務所」であるとか「選対事務所」を設置するといった、まさに「選挙活動」ができる法的根拠が見当たらないのである。
【記者会見にて】
「私はいっさい知らないこと。民主党に聞いて下さい」
吉田宏福岡市長、定例記者会見で言い放つ──事務所賃貸問題で責任転嫁
4月1日の定例記者会見で吉田市長は、暴力団関連企業が所有するビルの1階を市長が借りていた問題について、記者からの質問に答え「ビルの所有者が暴力団関連であったことは残念なことである」とした上で“民主党にまた貸しした事もあとから知った話である”ので、“民主党がきちんと説明する問題である”として、市長自らの説明責任を投げ出した。
さらに「選挙運動費用収支報告書の記載に問題はないのか」との記者の質問に「問題はない」と回答。さらに市長は「私の名義で借りたものが民主党に使用された経緯については民主党の考えが大きかったと思う」と付け加え自分は知らない、ことを強調した。
会見終了後、単独取材に答えて市長は「民主党に聞いてください」の一点張り。記者が「民主党の誰に尋ねればいいのか」と質問。市長は「江藤博美さん(福岡市議・県連幹事長代理)に聞いて下さい」と返事。
このように市長の態度は他人への責任転嫁で、自らの責任を感じている素振りは微塵もなかった。また市長が言うように「民主党が借りるということをあとから知った」ということは信じられないことだ。自分の名義で借りて、選挙運動に使われていたことを本人が知らないはずはない。本人が知らないままに「民主党にまた貸し」していたとすれば、これはまた別の問題が生じる。市長はこれらの疑問に答える責務がある。
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