バッタンバンにあるカンボジア政府が運営する第五軍病院には、第五軍区(バッタンバン・バンテアイミェンチャイ・ポーサット・パイリンの4地区)の患者が治療を受けている。元々は内戦の負傷兵を治療していたが、1993年のパリ和平条約以降、患者は減少傾向にある。
内戦中は最前線に医療チームを派遣し、朝から晩まで手術を行なった。地雷被害者が最多であり、案内してくれた医師は約200人もの足を、破傷風を防ぐために切断手術をしたという。内戦直後は、とくに地雷被害で障害者となった多くの人は自殺を考えたようだが、NGOなどと協力して心のケアに努めた。
負傷した軍人には国の保障制度(一生涯)があり、給料がもらえる。負傷の程度で額が変わるが、最低月10万リエル(約25ドル)からで、たとえば両足が無くなった場合には倍の給料になる。また、新しい義足も無料で提供されている。
内戦終了後は民間人向けの治療も行なっており。現在は13人の医師と48人のメディシンアシスタント、それに100人近くのナースというスタッフ構成で治療に当たっている。しかし、施設の設備は良くない。というのも、カンボジア政府の資金に余力がないため、同病院に資金が回らないのが現状だからだ。
また最近では、AIDS/HIV患者が急増しているのが社会問題となっている。同病院には現在330名が通院して抗レトロウイルス剤による治療を受けており、30名が入院中である。毎週金曜日に患者を呼んでミーティングを行なう。
AIDS/HIV感染のきっかけは、内戦中にタイ国境付近の軍隊に所属していた人間が、売春婦と夜遊びをして感染し、それが家族に連鎖的に感染していくというケースが多いようだ。また貧困のあまり、カンボジアの子供が他国に身売りされ、エイズに感染してカンボジアに戻らざるを得なくなり、職がないため再び売春することで拡大するというケースも近年増えているようだ。
ある独身の元軍人は「夜遊びしてエイズにかかったが、とくに何も感じていない。誰でも別の病気で死ぬだろう。特別な病気ではないと思う」という予想外の回答が返ってきて参加者も驚いていたが、これは特殊ケースだと思う。やはり、子供や妻など守るべきものがある人は「早く治して一緒に出かけたい」という回答であった。
埋まらない経済格差、そして内戦の深い爪跡。これらが生み出した問題は地雷被害だけではない。貧困、そしてAIDS/HIVという負の遺産をも生み出したのである。
つづく
【大根田康介】
※記事へのご意見はこちら