ネットアイビーニュース

NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

特別取材

No.025┃中国書店代表 川端 幸夫 氏 | 福岡への提言200人
特別取材
2008年4月15日 16:16

中国書専門の出版社
世界初の文革辞典発行

 中国書店は、福岡市にあって中国関係のユニークな書籍を発刊している。1997年出版した「中国文化大革命辞典」は作家・猪瀬直樹氏に激賞され、NHKのニュース番組や全国紙の書評でも取り上げられた。世界を揺るがした文革の本格的な辞典は世界でも初めてで、地方の1出版社が発行したこと自体驚異に値する。


猪瀬氏が激賞した文化大革命辞典

 この辞典はA5判・1125ページという大分量で、文革の全貌を時系列的に解き明かした世界初の本格的な辞典といわれる。編纂したのは中国の在野のジャーナリスト・陳東林氏ら3名。陳氏自身が文革世代で、元紅衛兵ら関係者に取材する一方、散逸しかけていた当時の資料を収集し9年の歳月をかけ88年完成した。
 ところが中国では発刊が許されず、原稿はつてをたどって密かに日本に持ち出された。川端社長は、関係者に迷惑がかかるせいか入手経路を今も明らかにしないが、中国書専門の出版社としてそれまでに築いた日中両国での人脈がモノをいったことだけは確かだ。地方の1書店がその価値を見出し、出版までこぎつけられたのは、「東京の大手出版社は初版5,000部が最低ロット。うちは2,000部からやれる」という地方の小出版社ならではの小回りの効く良さもあった。
 猪瀬氏は週刊文春に「文革は20世紀の出来事とは思われず中世の権力闘争を見ているような不可思議な気分に陥った」と長文の感想を寄せている。NHKは午後9時のニュース番組で出版を報道したほど。


「文革世代」の1人として

 川端氏も実は「文革世代」である。佐賀県での高校時代は国内ではベトナム反戦デモが吹き荒れ、中国では文革の真っ最中。川端少年も毛沢東思想のとりこになり、「大学で青白いエリートになるよりも、労農階級に学ぼうと」当時中央区清川にあった中国書店に飛び込んだ。時は政治の季節で、あちこちの集会に出かけては毛沢東語録を売る毎日が続いた。
 やがて政治の季節は終わり、中国を激動させた文革も収束に向かう。「潮が引くようにあちこちにできていた中国書籍の本屋がつぶれていきました」と振り返る。自身も文革に翻弄された若者の1人だったのだろう。


出版事業に進出

 10年ほど前からは経営も任されている。大博通りから明治通りを北に入った中呉服町にある2階建ての本店は、中国関係の書籍でぎっしりと埋まっている。倉庫に預けているものも含めると、蔵書数約6万部で岡山以西の中国関係の書店では最大という。九州大学をはじめ図書館、学術団体などの中国研究者や学生にとって、なくてはならない存在で、温厚で世話好きな川端さんを慕う個人的なファンも多いようだ。
 書店と並ぶ事業の柱である出版はリスクを伴う。中国書店の扱う学術書は地味で読者も限られ、市場規模は小さい。メディアで大きく取り上げられた文革辞典も定価3万1,500円で、購入者は大学や図書館、一部の専門家で、販売量は一般書と比べるべくもない。半面で、売れ残る恐れが常につきまとう。 
 中国書店が生き残ってこれたのは、出版事業のおかげだった。川端社長の下で、少ない年でも2冊、多い年には10冊以上の新刊を発行し、これまでに100冊を超える新刊を出している。従業員4名の地方の小さな出版社としては異例の数といえる。
 出版企画の元になるのは、川端社長のネットワークだ。読売新聞の元中国総局長で現在論説委員の藤野彰氏もその1人で、同氏が文革辞典の愛読者だったことからつながりができ、07年6月「臨界点の中国」(定価2,520円)を発刊した。
 07年末には中国の50年代末の反右派闘争で迫害を受けた知識人とその一家の歴史を描いた「嵐を生きた中国知識人――『右派』章伯均をめぐる人びと」を発刊する。地味でどう見ても一般受けしそうにない本だが、文革辞典と同様、現代中国の真実に迫ろうとする川端氏の執念を感じる。
 そんな同氏これから目指すのは対象をアジア全般に広げ、』隠れた名著や作家を発掘し紹介することだ。07年春には発行母体となる「集広舎」を起こした。前述の「嵐を生きたーー」はその第一弾企画で、現在インド人ビジネスマンの著書の翻訳出版の準備を進めている。集広舎はいずれ法人化し中国書店とは別個の出版企画を出していく計画。


[プロフィール]
川端 幸夫 (かわばた さちお)
中国書店代表

1953年3月4日佐賀県生まれ。
佐賀県立佐賀西高校卒。71年中国書店に入り、83年社長就任、2006年放送大学卒業。

店舗住所:福岡市博多区中呉服町5-23
TEL:092-271-3767
URL:http://www.cbshop.net/


※記事へのご意見はこちら

特別取材一覧
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル