多くの積水ハウス社員は、今、何かがおかしいぞ!と社内外の状況に素朴にこのような実感を持っているのではないか。住宅を取り巻く環境が大きく変わったことは皆が認識するところである。しかしその変化に、何の具体策も打てないのが実情だろう。
和田社長は「開発事業が数年見込めないから、本業の住宅の売り上げを増やせ。過去、危機にこそシェアを伸ばした伝統がある、幹部は強い意志で臨め、世間が不景気だからとは、言い訳にはならない」という趣旨の檄を飛ばしている。しかしこのような精神論で動く組織にはほど遠いのではないか。元社長田鍋のように、常日頃から「会社は運命協同体。全員参加の経営。労使はなく、労労だ。あの人のためなら頑張ろうと思わせる経営トップであるべき。同じ船に乗った以上、たまたま役割として社長、役員、部長、支店長、課長というのであって、自分が偉くなったと勘違いしている者がいる」と幹部の思い上がりを牽制していた。いつも人間愛の思想そのものを話し、実践していた。
このような、トップと社員の信頼関係のベースがあったから数々の危機も全員参加で突破できたのだ。しかし、今回の危機に、和田社長の檄に社員が素直に反応するのか。和田社長の日頃の言動では過去の伝統は通用しないのではと思うのだが?積水ハウスには、今も田鍋の考え方が30代以上の社員の心には生き続けている。和田社長は社長に就任してすぐに、東京、大阪、広島にあった設計部を本社の技術本部に集約し、商品開発は本社で行うことにした。各設計部で地域に合った住宅商品の開発をしていたのを、一手に本社に集中させたのである。
和田流中央集権体制を作り上げたのだが、近年は中央と地方の格差が拡大し、地方の地盤沈下が激しく、地方に適合する商品も開発されていないため、地方の苦戦がそのまま積水ハウスの苦戦につながっているのも一因である。田鍋は「会社が大きくなると、権力で支配し管理することは簡単だが、そうすれば労使の関係になる。命令で人が動くようになれば“機械”だ。そのような会社になれば、動脈硬化を起こす。硬直した弾力性のない会社になれば、創造性も生まれない」と言っていた。現体制は田鍋が指摘したとおりになっているのではないだろうか。積水ハウスはお客さんに対する営業の対応力、住宅商品の品質、アフターサービス体制 は今でも業界一だろう。今望まれるのは、早急な全員体制の構築だ。そのためにはトップを含めた幹部が、今一度田鍋が教えてくれた人間愛の原点に立ち返るべきではないだろうか。
野口孫子 (敬称略)
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