ここまで、小児科、産科の医師が慢性的な不足状態にあるということ、そして、それにさらに拍車をかける恐れのある「訴訟リスク」が潜在的に存在していることに対し、より良好な医療環境を構築し、医師の確保を進めることで対応する必要があり、そして、九大医学部教授有志グループの進める「福岡メディカルコンプレックス(FMC)構想」はその有効な手段となりえるのではないか、ということをお伝えしてきた。
ここからは、現在、福岡市が進める「子ども病院の人工島への単独移転」方針との比較を試みてみよう。
まずは、交通面からである。そもそも、市民がなぜ「単独移転」に諸手を挙げて賛成しづらいかといえば、人工島の「立地」が病院を受け入れる場所として悪すぎるからだ。
まず、人工島には、鉄軌道系のアクセスがなく、車、あるいはバスで行くしかない。子ども病院は市内だけでなく市域外からの利用者割合が高い。入院患者で53%、通院患者で43%である。
となると、福岡空港、あるいは、博多駅からのアクセスだって考慮しなければならないはずだ。FMC構想だと、九大病院のある地下鉄「馬出九大病院前」を利用できる。空港、博多駅方面からでも、西鉄宮地岳線沿線からでも、利用しやすい。
さらには、バス路線もある。利用者の多くは、子育て世代で、可処分所得が低い層もたくさんいる。おいそれとタクシーを使えるわけでもなく、公共交通のアクセスはまさに「ライフライン」なのである。
対して「単独移転」案だと、現状は、バス路線だけしかないし、しかも、香椎浜地区との間の「香椎アイランドブリッジ」と「御島かたらい橋」、雁ノ巣地区との間の「海の中道大橋」という橋が地震等で使えなくなった場合は、孤立してしまう恐れもある。
阪神大震災震災では、神戸のポートアイランドと対岸とを結ぶ神戸大橋の橋脚が傾いた。公共交通であるポートライナーも橋げたが壊れて不通になり、市街地との交通が断たれて孤立した。子ども病院は重症患者が多く、1分1秒を争う事態も頻繁に起こりうる。人工島へは他方面のアクセスを確保しなければならないのはいうまでもない。
「単独移転」の最大のメリットとされているヘリポートについては、福岡空港の管制区域の真っ只中という事から、進入制限で上空待機という事も考えられ、一刻を争う事態の場合間に合わない事にもなりかねない。心肺停止状態では、1分で10%の救命率が低下することも考えれば、あまり「メリット」だとは言えない。
等々総合すれば、誰がみても、交通面ではFMC構想が優れていると考えられる。
つづく
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