ガソリン税など道路特定財源に関する問題について識者に聞く。
今回はこの4月に県議会議員生活25周年を向えた新宮松比古氏に話を聞く。氏は、昨春県会議員として14年振りに県連会長職に就いた。国会の混乱で解散も取りざたされる中、その責任は重い。
━━━ 20年度当初予算案を審議した3月の県議会で民主・市民クラブは 道路特定財源の暫定税率分の歳入を見込んだ予算案の賛成に回りましたがこのことについての感想をお聞かせください。
新宮/ 九州の7県議会のうち、長崎、宮崎、佐賀、熊本の県議会で民主系 会派が20年度当初予算案に反対しました。全国的にも同様の動きがあったわけですが、わが福岡県議会の民主党は良識ある選択をしてくれました。
━━━ 国会の状況をどう思われますか。
新宮/ 現在の国会は全く政治が行なわれていない、という状況です。「暫定税率」と言いながらも30年のあいだ国庫に必要な財源として維持してきたわけです。事実上は、恒常的な財源となっていたとも言えるのですが、これを準備期間もおかず廃してしまうようなやり方は政治とはいえません。
暫定税率の廃止で国庫に2.6兆円(うち9千億円は地方)の穴があくわけですが小沢一郎民主党代表は、消費税を上げるのか、新税を設け穴を埋めるのか全く説明していません。
一方、自民党の方もこれまで5年ごとに行なってきた暫定税率の見直しを、今後10年間維持するとした上で、この期間総額で59兆円を投入し道路を建設する、と突如決定するなどしたことが国民の理解を超えて不信の原因につながっていると考えます。
全く両党とも政治のステップを忘れてしまったのか、と言いたい所です。
━━━ 道路特定財源の流用が問題視されています。
新宮/ 報道も道路特定財源を流用して国土交通省がスポーツ用品を購入し ていたことや職員宿舎などの建設費に流用したことに集中して加熱してしまい真っ当な議論ができなくなっています。
そのことはそのことで正す必要がありますが、道路はきっちりと建設してきたわけです。
政局の都合や、報道の偏りから離れて国民生活を見据えた立場で道路をどうするのか、税をどうするのかという議論を行なうべきです。
━━━ ガソリンの価格についていかかがですか。
新宮/ 日本のガソリン価格は153円のうち61円が税で税の割合は40%です。イギリスは248円のうち157円が税で63.3%。ドイツ224円に対して税が142円で63.6%。(2008年2月~3月)でガソリン価格の総額でも日本は安い方ですが、税額も低いのです。
この辺りの、確かな情報を基に道路特定財源の問題は考えていかなければなりません。
━━━ 福岡県への具体的な影響はどうでしょうか。
新宮/ 暫定税率の廃止がこのまま続けば福岡県では約350億円の減収となります。県の08年度道路事業予算は総額1,390億円です。このうち、509億円はこれまでの道路建設のための借入金返済額です。
新規道路建設と維持経費は881億円ですが、このうちの803億円の事業を国の補助制度と借入金で行ないます。この国の補助と借り入れは、一定額の原資を県で用意するという条件があります。
ところが暫定税率の廃止による減収で条件である原資の準備ができず制度の活用ができません。これによって803億円分の事業ができなくなります。
直接の減収は350億円ですが、結局減収に伴い活用できない制度などが出ることによって、総額1,390億円必要な道路事業予算が418億円に目減りしてしまい、509億円に及ぶ借入金の返済額にも及ばなくなります。
それでも、最低限の必要な道路の維持・補修費は必要です。福祉や教育の予算を削り補填するわけにはいきませんから麻生知事も大変だと考えます。
━━━ 今後、道路特定財源の処理についてはどのようにお考えですか。
新宮/ 暫定税率は廃止するとして、廃止分の財源を他で手当する必要があります。
方法としては、地域による遍在性が少ない消費税率を上げることによる補填が地方分権の流れ、また基礎年金の国庫負担、医療問題、福祉など今後、見込まれ財政需要を考えると最も適当と思われます。
ヨーロッパの消費税率は軒並み10%後半です。具体的な税率を上げるとイギリス17.5%、オーストリア19%、フランス19.6%であり、高度福祉社会を実現しているスウェーデン、デンマークに至っては25%です。
最も低い国がルクセンブルグでも15%ですが15%台は同国のみです。このような世界の流れを見ても政府は英断をもって税率アップを国民に対して説明しなければなりません。
話は、暫定税率失効による減収対策から、高齢化社会を向えた税体制の在り方に及びましたが、消費税率上げを含めて財源の目減りに対する手当を行なった上で1年の準備期間をおき暫定税率の廃止また、現在福田首相が指摘している一般財源化も含めて実行に移せば良いでしょう。
━━━ 冒頭、自党である自民党への批判も議員の口から出ました。国政自民党に対する議員の批判は、県議の立場で県連会長へ就任することになった経緯とも関わりがあると思うのですが。
新宮/ 衆議院の選挙制度が小選挙区になって選挙が人気取りの色合いを濃くしてしまい国会議員が広く政策を考えて行動しなくなっています。
中選挙区時代の福岡1区は5議席を争ったわけですが、投票数の20%を獲得すれば勝てました。きっちりと政策を訴えても20%くらいの同志は有権者の中にいます。
ところが1議席を争う小選挙区では5割の票の獲得が必要です。そこにはどうしても勝敗の要素に政策から外れたパフォーマンスが大きく入ってきてしまいます。
一方で地元の事情をひろって政策を考えるような本来必要な活動から国会議員が遠ざかっています。今回の道路特定財源に関する民主党の各議員の行動がそうですし、その後の自民党内の混乱も目先の人気取りによるものです。
昨年4月の麻生知事の4選への挑戦は自動車100万台生産拠点の実現、先端産業集積など、成功した政策を一層推進させようという矢先の選挙でした。
それを地域それぞれの事情や首長との関係を参考にすることなく単に多選を制限するというお題目だけを掲げた党本部は麻生知事に公認は愚か推薦も出さないということでした。
このような状況に県議、市議の有志は憤りを感じたということが要因の一つにもなり、私を担いで下さり14年振りに県議の立場で県連会長に就任することにもなったわけです。
━━━ 本日は暫定税率の問題から、高齢化社会に対応した税制の在り方まで示唆に富むお話をお聞きすることができました。ありがとうございました。
新宮/ 真に国民、県民への思いやりを政治が持てば、政策の選択肢は決まってくるかと思います。こちらこそ、ありがとうございました。
新宮松比古サイト http://www.fjbnet.com/singu/
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