世界標準に背を向ける
グローバル・スタンダード。世界標準と訳されている。1つの国だけでなく、どこの国でも通用する規格やルールのこと。ソ連が崩壊して東西冷戦が終結し、情報通信技術の発展で世界の市場が1つになってきたことから、あらゆる分野で規格をつくる動きが活発になってきた。世界標準を獲得すれば、世界市場で圧倒的シェアを握れるからだ。
世界中で大きなシェアを獲得し事実上の世界規格になっているものをデファクト・スタンダード(事実上の標準)という。パソコンのOS(基本ソフト)のウインドウズやCPU(コンピュータの中央処理装置)のインテルプロセッサーなどだ。最近では、新世代のDVD(録画機)の規格争いが記憶に新しい。ハリウッドを味方につけたソニー陣営のブルーレイ・ディスク(BD)が、東芝陣営のHD-DVDを破った。
このように世界標準を獲得するかどうかは、メーカーにとって死活問題なのだ。それなのに、なぜ第二世代携帯では日本独自の規格を採用したのか。2つの理由がある。
1つは、通信事業が国家の安全保障の根幹に関わる基幹産業であること。通信技術を外国勢に握られることを防ぐために、郵政省=NTTは日本独自規格を導入した。
2つは、通信会社が主導する日本特有の商慣習に根差していること。メーカーは、NTTドコモなど通信会社の指示を受けて端末を開発・製造。直接販売の相手は通信会社だけ。携帯電話端末メーカーは、単に通信会社にOEM(相手先ブランドの生産)供給者にすぎない。端末機メーカーが市場に直接販売できないのは、世界では日本だけの現象だ。
このように郵政省=NTTが、日本独自仕様の閉鎖的な通信環境を整備した結果、携帯電話端末メーカーは海外に開かれた商品戦略を練ることができなくなったのだ。
国内だけにとじこもる
日本が第二世代携帯で、GSM方式を採用していれば、世界の携帯電話市場の地図は大きく変わったかもしれない。日本の携帯電話産業は、1990年代に世界をリードした。NTTドコモが1999年に世界最初の携帯電話からインターネットにアクセスできるサービス「iモード」を開始し、2001年には世界で初めて第三世代携帯電話サービス「FOMA」を取り入れた。技術的には、世界水準より一歩も二歩も進んでいた。
しかし、何度も繰り返すようだが、第二世代のケータイは国内だけしか通用しない端末だったため、海外では勝負にならなかった。これが日本の端末機メーカーが世界で敗れた最大の原因だ。
第三世代携帯は、日本も世界標準の規格を採用。孤立していた状況から抜け出し、メーカーは世界で売れると意気込んだ。世界最大の市場である中国にこぞって進出した。しかし、時すでに遅し。ノキアやモトローラなどの欧米勢に市場は押さえられ、日本のメーカーは全滅した。
世界シェア(2007年)は、トップがフィンランドのノキア(37.8%)、2位は米モトローラ(14.3%)で、3位は韓国のサムスン電子(13.4%)。サムスン電子が激しく追い上げており、2008年にはモトローラを抜いて2位に浮上することは確実とみられている。
郵政省=NTTが、海外メーカーの国内進出を防ぐために、日本独自仕様の携帯を作る、という致命的な戦略ミスを犯さなければ、今頃、日本のメーカーが世界シェアのトップ争いに登場していたのは間違いないだろう。世界標準を無視した日本独自仕様というミスがたたり、世界市場に食い込めなかった。自国市場が小さいため、最初からグローバル展開を考えていた韓国とは好対照だ。国際戦略で致命的ミスを犯した郵政省=NTTの責任はとてつもなく大きい。
かくして端末メーカーは国内だけの争いになった。調査会社のガートナー・ジャパンの調べによると、2007年の国内携帯電話販売台数の端末メーカー別シェアは、シャープが24.3%でトップ。2位が12.4%のパナソニックモバイルコミュニケーション、3位が11.1%の富士通。
欧米の主要市場で地位を失い、世界最大市場の中国では全滅。やむなく国内に閉じこもったものの、国内のケータイ市場はすでに頭打ち。国内にひしめきあっていた携帯電話端末メーカーの淘汰が、一気に加速することになる。
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