ライバルの大和ハウスが今期(2008年3月期)営業利益で過去最高の利益を出すと、5月14日の日経新聞の活字が踊っていた。3期連続で過去最高を更新する見通しと発表した。売り上げ、1兆7,500億円(前期比2%アップ)、営業利益950億円(7%アップ)を見込む。住宅事業は低迷するが、ショッピングセンターなどの商業施設、開発事業、ショールームの建築請負が好調で、住宅以外の多角化が寄与しているという。樋口会長が社長時代に組織改革されたことが、一気に花開いてきているような実感がする。大和ハウスの事業は戸建、賃貸アパート、流通店舗、開発事業請負、マンションの5事業である。
当時はこれら5つの事業部ごとに事業部長がおり、担当役員がいる組織だったが、樋口社長(当時)は、全国の支店を社長直轄の支店にして、各支店長に人事権、決裁権を委譲し、地域の社長として「権限と責任」を持たせる組織に変えたのである。赤字支店長は経営者として責任を取ってもらうため、ボーナスゼロ、しかも、赤字支店長は交代となるシステムにして文字通り、仕事する組織に改革したのである。上役ばかり見て、仕事をするひらめ幹部は排除されて行った。
このことが、まず、売り上げで積水ハウスを抜き去り、利益でも手の届くところまで来る成果をもたらした。
一方、積水ハウスの場合は、和田社長当時の中央集権で、支店長、営業本部長はいるものの、社長の最終的決済がないと動けないため、社長に事前に根回しをして、稟議書を回し、決済をもらうのが実情のようだ。
和田会長、安部社長になっても、大筋では変わらないのではないと社員は見ているようだ。このように現場に権限委譲はなされてないので、スピード経営の観点からも、現場に経営を任せるという人材育成の観点からも、遅れをとっている。社長の顔色ばかり見る、ひらめ族が多いような気がする。筆者が取材をして感じたことである。
積水ハウスの中期計画では今期(2009年1月期)の売り上げは1兆6,600億円、営業利益1,040億円としている。辛うじて営業利益段階でトップを死守している状況である。しかしながら、積水ハウスの最近の受注状況を見ていると、前年比割れが続いている。計画通りに達成は難しいのではないだろうか。
大きな組織では一人一人の力はたいしたことにはならないが、会社と会社の総合力で見ると、大きな違いが出る。社員の能力の差ではない。首脳陣のリーダーシップの差が歴然と現れるものだ。
田鍋の時代、昭和49年(1974年)大和ハウスからトップを奪った時から、およそ30年間業界のリーダーとして君臨してきたが、田鍋の死後、数年で大和ハウスに首位を奪還されてしまったのは社員の問題でなく、リーダーの問題である。
田鍋は若い営業所長と直接対話して、現場の声を大事にしていた。一方、営業部長、担当役員は現業に対して邪魔扱いをしていた。田鍋は、オブラートに包まれた声より、直接生の声を聞いて、経営判断をしていたように思う。樋口会長と同じ考えである。
田鍋時代、積水ハウスは業界の中で、圧倒的強さがあった。お客の評判、信用力には抜群の定評があった。当時の大和ハウスは積水ハウスを抜き去ることすら、思いも至らないことだったろうと思う。
最近では、3番手、4番手の住宅メーカーでも、個別の部門、たとえば、戸建で積水ハウスを追い越そう!というところも現れ始めていると聞いている。このようなことはあるということは信じられない事だ。知らないうちに、大組織病にかかり、建前、フリ、をする幹部、社員が増えているのだろう。
「どげんかせんといかん!」と思っているのは筆者ばかりだろうか?
野口孫子
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