前回、福岡地場舗装業の各企業を比較し、業界における生き残り策を模索した。今回は、国会における論点のひとつとなっている道路特定財源に絡め、地場業界の思惑と福岡県を代表する舗装工事会社についてレポートする。
道路特定財源を巡る 暫定税率廃止の争点
現在、政争の具として「廃止」「存続」と声高に論じられている道路特定財源。一般市民に関わりの深いガソリン価格に直接反映される議論のため、国民の注目度合は高い。世論の約70%が暫定税率の廃止を求めているという事実が、それを物語っている。
もともと、道路特定財源は受益者負担の原則に基づき、道路の使用者、すなわち自動車の所有者や燃料を使用した人が道路の建設・維持費用を負担する制度である。1953年、田中角栄氏が「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」を、議員立法で制定したのが礎となる。その際、「揮発油税」が道路特定財源となった。
道路特定財源について「暫定税率廃止か維持」、また「本則税率の一般財源化の是非」の2つの争点が国会で議論されている。現在まで続く暫定税率は、73年から77年度の道路整備5カ年計画の財源不足に対応するために、74年度から2年間の暫定措置として実施された揮発油税、地方道路税、自動車取得税、自動車重量税の税率引き上げが、30年以上延長を重ねてきているもの。ガソリン1リットルあたり、揮発油税48.6円と地方道路税5.2円の合計53.8円の税金がかかっている。このうち25.1円が、道路整備のために上乗せされた暫定税率分だ。暫定税率がかかっているのは、ガソリンだけではない。軽油価格や自動車重量税にも含まれており、総額は約2兆7,000億円にのぼる。
暫定税率は、道路整備5カ年計画が延長されるたびに、租税特別措置法によって期間延長されてきた。2008年3月31日に期限切れとなり、一時ガソリンの小売価格が引き下げられたが、5月1日に復活したことで暫定税率の論争が激化してきている。
暫定税率維持派の与党(自民党・公明党)は、道路工事推進による恩恵を欲しており、地方六団体も暫定税率維持を唱えている。公共工事がこれ以上減少すると、地域経済の活性化・産業振興にマイナスの影響を与え、地方の疲弊に拍車がかかる。公共工事に依存している建設業各社は、まさにギリギリの経営を強いられている。暫定税率が撤廃されれば、風前の灯たる企業は破綻に追い込まれ、地域経済に悪影響を及ぼすというのが、維持派の論調。
九州地方に限って言えば、全線が未開通である東九州自動車道沿線の各地域(福岡県北九州市~大分県~宮崎県~鹿児島県加治木町)への危機感は強い。維持派は、高速道路という社会インフラの欠如が、企業誘致や地域医療の面で大きなハンディとなり、中央との格差がますます拡大すると主張。
一方の野党は、暫定税率を廃止してガソリン価格などを値下げし、そのうえで、残った本則税率分について一般財源化したい考え。各地方自治体の裁量で使える自主財源にすることによって、これまでのような中央集権的な補助金行政を一切とり止め、各地方自治体が地域住民の意見を聞きながら、道路建設だけではなく福祉・医療・教育などに予算を使えるようになる。従来の官僚主導から、国民・地域主権の地方分権へのきわめて大きな意味を持つ政策だとしている。
暫定税率の廃止による地方自治体の税収減に対しては、地方自治体が支払っている「国道等の国直轄事業負担金(約6,000億円)」の廃止や、道路新規建設補助金自体を無くすことによる「補助金の地方負担(約4,500億円)」の廃止で、ほぼ減収分(約1兆円)の穴埋めができるとしている。道路の必要性を十分吟味し、必要な道路拡張や整備のみを実施するため、前回述べたような、掘っては埋めるだけの予算消化が一切行なわれなくなる可能性は高い。
どちらの言い分も、その立場を鑑みれば正論である。しかしながら、国土交通省の無駄遣いが露呈した現況から言えば、暫定税率撤廃の方に風が吹いていることはたしかである。
地場舗装業界の思惑は? 暫定税率の是非
こういった流れを舗装業界はどう見ているのだろうか。暫定税率の是非について、地場舗装業界関係者はこう語る。「本音を言うと、維持されるのに越したことはない。少しでも公共工事の受注があれば、それなりに経営は維持できる。しかし、劇的に公共事業が増えることは、このご時世から言って、無いだろう。仮に大きなインフラ整備のプロジェクトが発生しても、それはゼネコンから下りてくる受注であり、こちらに利益はさほど無い。掘っては埋めるの工事ばかりでは、まったく意味が無くなってきている。国土の仕事であるから、奇をてらったことはできないが、小さいことから取り組んでいこうと考えている。たとえば、排水性や透水性の良い材質などを取引先と共同で開発し、その材料で舗装工事することを自治体に提案するなど、何かひと工夫して事業を手掛けていかなければならない。メーカーや自治体に依存するのではなく、施工側から積極的に仕掛けていくことで社会に貢献しなければ、この舗装業界の淘汰は日増しに進行していくであろう」。
当然、公共工事が打ち出の小槌ではない。しかし、事業の特性上、民間だけに活路を見出すのは厳しいことも事実だ。今後、自治体と協力しながら、新たな提案を行ない、街づくり、より良い道路環境づくりに尽力してくことが求められるだろう。それは、福岡地区ではトップクラスの舗装工事会社として知名度を誇る興和道路(株)においても例外ではない。
業界上位の興和道路だが
Company Information
興和道路(株)
代 表:田中 隆臣
所在地:福岡市中央区平尾3-16-17
設 立:1949年9月
資本金:9,817万5,000円
年 商:(07/4)25億3,351万円
興和道路(株)は49年9月に興和瀝青(株)として、資本金1,000万円で設立されたのが始まり。同年10月には福岡県知事登録を行ない、55年9月に現商号に社名を変更している。69年11月には舗装工事、72年9月には土木工事、86年5月には造園工事で建設大臣許可を取得。現代表は91年10月に代表取締役社長に就任しており、3代目の代表となる。
同社と田中鉄工(株)、(株)カルカヤ、カガミ産業(株)は、それぞれ、兄弟が経営する関係会社である。これらの企業は、田中一族が株式を保有する企業群であり、同社も田中一族の同族会社である。
同社は舗装工事、土木工事のほか、合材・乳剤の製造販売も手掛けている。工事関係の主力受注先は官公庁であるため、近年は公共工事抑制の煽りを受ける格好になっている。なお、同社の受注先の官・民比率は別表の通り。ちなみに、07年4月期の完工高18億8,704万円のうち、舗装工事が18億5,144万円(98.1%)を占める。
前述したとおり、公共工事削減の影響をまともに受けており、業績は低迷基調にある。03年4月期までは40億円台の売上高を維持してきたが、減収傾向に陥っており、07年4月期では30億円を割り込む25億3,351万円にまで落ち込んでいる。利益面においても、05年4月期から07年3月期まで連続して営業損益段階から赤字を計上。毎期1億円を超える最終赤字を計上する状況となっている。
ただし、これまでの内部留保の蓄積は厚く、自己資本比率は45%台、06年4月期までは実質無借金経営だったこともあり、依然として借入金負担は少なく、財務内容は健全域を保っている。08年4月期の売上高は26~29億円程度の見通し。
同社は07年7月、同年8月4日から7日間の営業停止処分を受けた。内容は、同社が九州地方整備局福岡国道事務所発注の「一般国道202号六本松地区(その2)景観整備工事」において、虚偽の施工体制台帳を作成し、発注者に提出したというもの。営業停止の範囲は、「福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県及び沖縄県の区域内における土木工事業に関する営業のうち、公共工事に係るもの又は民間工事であっても補助金等の交付を受けているもの」となっている。
業績の低下に歯止めが掛からない状況での行政処分は、当然ながら同社の業績にマイナスの影響を及ぼすことになった。
減り続ける建設投資 取り巻く環境は厳しく
07年度の建設投資は、49兆4,300億円となる見通しで、対前年比▲5.5%となった。当初予測では、10年ぶりに増加した前年度に続き増加となる見通しだったが、改正建築基準法施行の影響により、50兆円を割り込む結果となった。なかでも、政府建設投資、いわゆる公共投資は9年連続のマイナスとなっており、対前年比▲3.7%となった。公共投資の大半が土木工事であり、こうした状況が公共工事を主力とする同社のような企業に与えるダメージは大きい。
さらに08年度の建設投資は、対前年度比2.3%増の50兆5,700億円が予想されているが、政府建設投資は前年度比▲4.3%で、引き続きマイナスになる見通しである。民間土木投資が07年度で4.2%増、08年度で3.1%増の見通しとなっていることはプラス要因だが、もともとの発注金額に大差があるため、民間土木投資で公共工事の減少を補うことはできない。
民間工事は近年のマンション需要の高まりがあったため、徐々に回復傾向にあった。それに対して政府建設投資は落ち込む一方であり、建設投資そのものはピーク時から約40%のダウン、政府建設投資に限って言えば約50%のダウンとなっている。前述したように政府建設投資の大半は土木工事であるため、もっとも厳しい状況に追い込まれているのは、土木工事業界であることが分かる。
企業として存在する意味
業界の状況を見れば、今後、土木工事の業界が劇的に回復することは考えられない。生き残っていくための企業努力は生半可なものでは通用しないだろう。新たな付加価値の構築を目指すなど、高い理想と企業理念がなければ、土木事業分野での成長は難しい。
興和道路の場合、赤字を続けながら、過去の利益の蓄積を吐き出している状況だ。リストラを続けながらも恒常的な赤字体質では、そこに企業としての存在価値を見つけることは難しい。土木業者からは「できれば廃業したいが、借金があるため廃業できない」といった嘆きをよく聞く。それら同業者と比較すれば、同社は恵まれている。相応の資産背景もあり、実質的には無借金と言っても良い状況だからだ。今後も赤字基調から脱却できない見通しならば、廃業もひとつの選択肢として考える必要があるのではないか。
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