積水ハウスは過去の栄光を捨てきれず、和田会長の幹部向け訓示の中に「当社には創業以来厳しい時こそシェアーを伸ばしてきた伝統がある。まだまだ伸びる余地がある。幹部は率先して、強い意志で臨め!世の中不景気の風潮があるが、それは言い訳にならない。我々には大きなチャンスである。大いに発奮して欲しい!」といっている。
それを聞いて、幹部達の中に「そうか、やろう!」と思ったのが何人いたろうか。やろうと思っても、具体的に何をしたらいいか、わからなかったのではないか。和田の訓示を聞いて、各地区の幹部が現場の所員に同じことを訓示しても、馬耳東風ではなかろうか。過去の苦難を乗り越えてきたのは、先輩たちが知恵の限りを尽くして乗り越えたのである。今の経営者は、社員に何の具体的戦略政策も打ち出せず、何か精神力だけで突破せよと檄を飛ばしているに過ぎない。
戦前の日本軍が、「神風が吹くから絶対負けない」といってる思考パターンと同じである。田鍋時代に成功してきたのは、田鍋の全社員の経営参加のもと、役員、幹部、社員の役割はあっても、人間としては平等、人間愛の思想で、全社をまとめてきたのである。このことが、積水ハウスのひとつの大きなエネルギーとなり、一朝事があれば、あらゆる苦難を乗り越え、30年にわたり、トップを走り続けたのである。
和田体制になり、社員の心は離反し、積水ハウスは戦略なき会社になっているのではないか。会社のトップにふさわしい人材とは、文学、歴史、思想、科学、音楽など広範な教養に裏打ちされた圧倒的な大局観と総合判断力を持った人である。その上で営業政策、財務、人事、生産、商品開発、施工の基本政策を立案できる能力ある人である。いまや、積水ハウスは長期戦略も立てられず、大和ハウスを追いかけることも出来ないでいる。役員、幹部が和田会長の顔色ばかり見ている組織に戦略が立てられることは出来ないのではないか。
また、古い話になるが、日露戦争で日本が勝利した翌年に、それまで日本に味方していたアメリカは、台頭する日本といずれ太平洋を巡り戦争になることを想定して、オレンジ計画を作っている。35年後に日米戦争になるが、オレンジ計画とおりの戦闘経過になったのである。オレンジ計画とは日本が台頭することを前提に日本包囲網を作り、生命線の石油を止め、否が応にも戦争に追い込み、それを叩くという壮大な戦略であった。まんまと日本はひっかかったのである。大和ハウスは樋口社長(現会長)就任以来、長期経営戦略をたて、社内の組織改革、人事の刷新ひらめ族の排除などを実施、仕事中心の体制を確立した後、積水ハウスを抜き去ったのである。戦略なき会社は脆弱であることを認識すべきである。
野口孫子 (敬称略)
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