オーストリア伝統技で福岡のブランドを目指す
欧州各国の食文化が融合した技術
平尾から長住方面に抜ける通称山越え道路。
平尾霊園から南に下った寺塚交差点近くに菓子店「サイラー」はある。店頭に並ぶのはオーストリア伝統のパンやお菓子で、ひとつひとつに職人の技が光る。
オーナーのサイラーアドルフ氏は1963年、オーストリア・マウエアキルフェンで生まれ。実家は4代続く菓子舗で、職業訓練の学校で学び、1989年に来日した。千鳥屋に3年間勤務した後に本国でマイスターの資格を取得し再来日。菓子店の店長などを経て、93年にサイラーを開店した。
「オーストリアのお菓子は、13世紀から19世紀に栄えたハプスブルグ家と関係が深いんです。同家の人々が甘いもの好きだったことで菓子作りが発展したのですが、そこには統治したスペインからフランス、ロシアまでの食文化が融合。伝統の技は後にパンにも生かされ、今日に至っています」
現在、サイラーの人気商品はパンセンメルとプレッツエル。本国やドイツの朝食には欠かせないパンで、同店の看板商品でもある。材料にはラードを多く使い、70年前から使い続ける機械で焼いて、伝統の味を守る。
旬の素材を使ったケーキやチョコレートは見た目のユニークで、他にアイスクリームもある。店内は木製のインテリアで統一され、さながら欧州のカフェの雰囲気。それもそのはずで柱からテーブル、壁の絵に至るまでオーストリアから取り寄せたという。
質実で勝負するゲルマンの職人気質
店舗はお客さんにわざわざ買いに来てほしくてあえて住宅街に出店したそうだが、今ではすっかり地域に溶け込み、『子供の誕生日に食べたいケーキはサイラー』と言われるまでになった」と胸を張る。
またサイラー氏は大のサッカーファンで、アビスパ福岡の熱心なサポーターとしても知られ、オフィシャルスポンサーにも名を連ねる。06年には球団と共同で「アビロール」や「アビスパクッキー」などオリジナル菓子も開発。同店、博多の森競技場他、ネットでも販売している。今後は多店舗化は進めず、チーズやハムなどの商品展開を図り、サイラーブランドの確立を目指すということだ。
菓子の老舗が多い福岡では、「ひよこ」のを立体商標登録を巡り、論争が巻き起こった。
昨年11月、知財高裁はひよこは知的財産権として保護される立体商標に当たらないと判断。ひよこ型の和菓子は伝統的でありふれた形として、菓子職人は自由に作れるようになった。
この論争についてサイラー氏は「オーストリアでも老舗や伝統を謳っているお店はありますが、おいしければあったほうが良いし、おいしくなければ意味がないです」と店の看板より味に重きを置いたスタンスをとる。
伝統の技と味を守り続けるからこそ、人々に広く愛される。形や名前による権威づけより、中身で勝負するのがサイラー流ということか。質実を重視するところはいかにもゲルマン気質らしいところだ。
[プロフィール]
サイラーアドルフ
有限会社サイラージャパン
代表取締役
1963年オーストリアのマウエアキルフェンで生まれ
15才で職業訓練の学校でパンと菓子作りを学び、1989年に来日。
福岡の「千鳥屋」で3年間勤務などの経験を経た後に一度オーストリアに戻り、パンと菓子のマイスターを取得。
その後、菓子店の店長などを経て、1993年に南区に「サイラー」をオープンさせた。
福岡市南区長丘2丁目1-5
TEL092-551-7077
URL http://www.sailer.jp/