「オンリーワン企業」として中小企業の鑑といわれた企業でお家騒動が持ち上がった。東証1部に上場しているミニラボ(写真の現像・焼き付け機)のトップメーカー、ノーリツ鋼機(本社・和歌山市)の社長人事をめぐるゴタゴタである。
同社は5月16日、佐谷勉社長(68)が退任し喜田孝幸副社長(57)が社長に昇格する人事を内定したと発表。だが、喜田氏の昇格には5割弱の株式を保有する創業家が反対の意向を示しており、6月27日の株主総会で社長人事案が否決される可能性があるという。
創業者である西本貫一氏が05年8月に死去してから3年足らず。この騒動は、創業者が後継者を誰にして、創業家と会社の関係をどうするかについて、はっきり決めていなかったことに火種があった。創業者には他人事では済まされない重い意味をもつ。
ミニラボで世界企業に
創業者の西本貫一氏は立志伝中の人物。1915年、和歌山県海草郡(現・和歌山市)に生まれた。日中戦争従軍中に左腕を負傷したため、家業の農業を継ぐことを断念。43年に郷里の和歌山市で写真館を開業したのが、写真にかかわるきっかけ。
片腕が不自由なため、自動化を考えざるを得なくなり、水車の原理を応用した印画紙の自動水洗機を開発。これを機に56年、前身のノーリツ光機製作所を設立、61年に現社名に変更した。
大飛躍するのは76年。カラー写真の現像からプリントまで45分でできるミニラボを開発した。スーパーに設置されたDPEコーナーでフイルムを渡すと、買い物を済ませたころに、仕上がった写真を受け取ることができる。この機械を開発したのだ。
当時、カラー写真を現像・プリントに出すと仕上がるまで数日を要していた。専門の現像所でカラー写真の現像・プリントを行っていたからだ。西本氏は、カラー写真を素早く仕上げたいと常々考え、開発にかかった。そして出来上がったのが小型自動現像システム(QSS=クイック・サービス・システム)。この機械はフイルムから仕上がるまで人手を使わず、わずか45分で仕上げてしまう(いまではもっと短縮されている)。
カラー写真の現像・プリントが大型機械で、しかも人手と時間を費やしていた当時の写真業界にとって、QSSは業界の革命といわれた。
西本氏は、コダック社の社員から「この機械の発明はイーストマン・ゴダックの発明に匹敵する」と評価された。コダックはロールフィルムを開発してボックスカメラを発売、写真の大衆化をもたらした。QSSは写真の現像・プリント面での大衆化を促した。
ミニラボの改良型が米国をはじめ世界で大ヒット。世界シェアの50%強を占めるまでになった。同社の2008年3月期の売上高は626億円、経常利益48億円。売上のうち海外売上高が85.8%。国内よりも世界のほうで名が通る。
和歌山の零細な工場がミニラボの開発で世界企業の仲間入りを果したことから、「オンリーワン企業」として中小企業の鑑と絶賛されたのである。
つづく