談合について。役人の技術力の低下・・・
■地元建設業者の支援と自由競争のバランス
私は、将来の人口推移から考えると、費用対効果の低い投資は子供たちに借金を背負わせるだけと思っていました。だから今も長崎新幹線のような無駄なものにはとても賛成できません。しかし、整備が遅れていた下水道のように、必要なものには工夫をした上で重点投資をしました。
さて、市長就任後、公共事業の入札にさいして、ともかく談合を減らす工夫をしました。当初は98%前後だった落札率が91%程度まで下がりました。しかし、これは未熟な政策でした。佐賀には競争力のある建設会社が少ないことも悩みでした。公共事業費が減少するわけですから、地元の建設業者は地元から出かけていって、他県の仕事を取ってくる必要があります。しかし現実は逆で、県外業者が民間工事を中心に佐賀にどんどん進出していました。
「だから、公共工事だけは地元でやってくれ」という意見には一理ありますが、それでは残念ながら技術力が向上しません。たとえ、公共事業が自由競争になっても、対外的に競争力がある企業は生き残ることができる。しかし、そうではない会社が多数を占めるのが現状です。一般競争入札を取り入れればコストは下がるけれど、失業者が町に溢れることになりかねない。ここは、本当に頭の痛いところでした。
■建物の価格と品質のバランス
岐阜県にある希望社という建設会社とCM(コンストラクションマネジメント)契約を結んで、小学校の改築のプロジェクトを手伝ってもらった時の経験が、私に気づきを与えてくれました。著書『公共事業を、内側から変えてみた』(日経BP社)に詳しいので、詳細は譲りますが、私は希望社と仕事をして、入札の結果として、落札率が下がることにだけに関心を持つことは間違っているということを学びました。
発注者としてどの程度の品質のものを建設したいのか、それが無くて価格だけの議論をすることはおかしなことだと教えられたのです。価格と品質のバランスが重要なのです。加えて、品質を確保しようとしたときに、市役所側の技術者に技術を評価する能力がないということも思い知らされました。
■市役所の建設関係技術職員の技術力の低下
市役所側の技術力が低下したのは、バブル期に急激に建設関係の仕事が増えたため、民間に丸投げしてきたからではないかと思いますが、市の技術職は、細かい設計ができないのはもちろん、直接工事に携わることも少なくなって、現場で求められる技術についていくことができなくなっています。「監督者」として、図面通りにやってもらえればいいという程度の認識ですから、創意工夫の意識が生まれることもありません。
この問題は市役所の職員だけでなく、国の建設関係職員にも共通した課題です。耐震偽装対策として現場の大混乱を引き起こすような制度変更をしても、事前にその問題点に気づかないのです。
予算の増額を殆ど認めようとしないのも大きな問題でした。たとえば下水道は土の下を掘りますから、いざ工事が始まってみたら予想以上に地盤が悪く、工事費がかさむということもありえます。そんなときには、予算を額増せざるをえません。ところが、市の職員は、なかなか増額を認めようとしません。これは、市の側が技術力と現場の経験を持っていないからですが、「一度決めた設計を変えるのは市の技術者として能力が低い」と評価されてしまう不思議な内部の習慣もあったのです。
そもそも自治体が発注する工事の原資は税金です。技術者は、常に安くてよいものをつくることを徹底的に考える必要があるはずです。しかし、職員に、その意識は希薄なのが現状です。
■落札率の低下よりも大事なこと
大半の自治体では、入札制度を変えて、落札率を下げることばかりに一生懸命ですが、この全国的な風潮に私は懸念があります。実際に落札率が70%を切るくらい、大幅に下げている地域も相当数増えています。しかし、手抜き工事によって建物が早めに痛み始めないか、10年後、20年後が心配です。
談合そのものはもちろん法律に違反していますが、それ以上に、行政側に「いいものを安くつくる」という発想がなかったことがより大きな問題ではないでしょうか。要するに、無駄なものをつくらず、つくるにしても市役所側が相当勉強した上で、必要な品質のものを適正な価格でつくる設計をする。その次の段階が、入札制度の改革という順番なのです。そして、それ以上に大事なのが、入札後の工事進捗の中で、きちんと工事の管理や検査を行い、いかに品質を高めていくかではないでしょうか?
談合防止のためにエネルギーを割いても、その結果、安かろう悪かろうの工事ばかりになってしまったら本末転倒です。むしろそのほうが、談合そのものよりも害悪が大きいような気がします。
■市役所の技術者を育てる
市役所の建設関係の技術者が駄目だ、駄目だとただ非難していただけでは、無責任です。そこで考えたのが、ともかく、現場の経験を積ませようということでした。現場の経験がない技術者など、役に立ちません。これまでは外注が殆どだった学校建設の設計や公民館の設計などを自前で行うように変えていったのです。しかし、今までやっていなかったことが急にできるようにはなりません。最初は、設計で必要なものが抜けていたこともあるなどトラブルも結構あったのですが、これは目をつぶるしかありませんでした。
私は、可能であれば、これまではゼネコンがしていた現場管理の仕事も市役所職員が担うようにしようと思いましたが、これは時期尚早と断られました。しかし、いつの日か自前の現場力を市の職員が身につけたとき、公共事業は大きく変わるでしょう。本当は、経験豊富な民間の建設技術者を中途採用するのが、即効性があると思うのですが。
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