世界の経済の景況感は低下している。アメリカ発の世界経済悪化、原油価格の高騰がとまらないことも、益々不安定感を助長している。もうひとつ、官製不況といわれているものがある。建築基準法の
改正で、官僚はコンプライアンスを重視し、人手を増やさずチェックを手厚くしたのである。
従来、行政はチェック機能を手厚くしてなかった。当然建築許可が大幅に遅れた。そのため住宅着工は前年に比べ、大幅にマイナスとなったのである。また経産省は安全保障上の理由で、電源開発(Jパワー)の外国人持ち株の規制を断行した。イギリスのファイナンシャルタイムズ紙は一面で「投資家に閉ざされた日本」と大々的に掲載している。このように、官製による投資規制は外国からの投資が二の足を踏んだり、躊躇する要因にもなるだろう。
一方では、欧米型の市場経済という黒船が来航したかのごとく、実力主義の導入を始めたのである。日本企業の年功序列、終身雇用、という日本人に見合ったシステムが時代遅れとして葬り去ってしまった。しかし、日本の経営側は実力主義を本来の意味の実力主義の採用として使うのでなく、給与制度を改革するための大義名分として使ったのである。実力主義で給与の上がる社員は少ないのだ。役員は給与経費のバランスが優先だから上がった方があれば下がるのもいるということである。
その過程で不明朗な配分があれば、社員の士気は一気に落ちてしまう。この制度は野心家で理屈上手な人が出世できるのである。「人事の公平」と、どんなに有能な人が言っても、古今、人の持つ真の実力を客観的に数値で表す方程式はないのである。人を評価する絶対的数値がないなら、評価する側は数値以外の要素を加味して、実力を推定しているのである。
その要素とは、人間関係の好き嫌い、派閥の力量など、恣意的な勝手気ままなものなのである。そのため殆どの人事が、実力主義の大義名分の下、野心のある役員、上層部の好き嫌いの世界で決まってしまうのである。実力主義はスタンドプレーヤーをはびこらせ、組織全体のやる気をなくす欠点がある。年功序列のような緩やかな昇進の方が日本の企業には向いているのではないだろうか。
本当の実力主義は日本の歴史のなかでもあった。豊臣秀吉、西郷隆盛、大久保利通、それからNHKの大河ドラマ「篤姫」に出てくる安部正弘、備後福山10万石の藩主。僅か25歳で老中に抜擢された。ゴマすりとかの次元でなく、真の実力のある人材は、どのようなシステムの中でも、時代が要請して登場してくるのである。このような実力者は先輩が二周以上先に走っていても、追い越してしまうものだ。
積水ハウスが低迷しているのは、和田会長(当時社長)が実力主義、成果主義を前面に出しすぎて、社員間に、昇進、昇給、賞与に不公平感が漂っているのではないのか。昔のような、社員一体でこの危機を乗り越えようという機運が生まれない。社員はしらけているように見える。 前述したように、好き嫌い、派閥次元の人事が横行していたのではないのか。田鍋時代に育った幹部は社員と運命協同体、家族であると言われ、積水ハウスとともに育ってきた。田鍋の根本思想はある程度実力主義を入れながら、終身雇用、年功序列であった。社員はぬるま湯を望んでいるのでなく、公平な人事政策を望んでいるのである。
野口孫子(敬称略)
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