01●崩壊する介護
制度の根幹 揺るがす現状
02●シリーズ地方財政
「大責任転嫁時代」をどう生き抜くか(夕張編)
01●崩壊する介護
制度の根幹 揺るがす現状
年金から保険料を天引きされることへの国民の怒りがいかに凄まじいものか、いまさら説明する必要もないだろう。
ところで、天引き=お金を払うということは、それなりのサービスが受けられることを前提に対価を支払うと考えるのが普通である。
介護保険制度がスタートする時、保険料はいただきますが、より多様なサービスが「選択」できるようになります、という触れ込みだったと記憶している。
民間業者の参入で、サービスの質も、種類も増えて、バラ色の老後が実現するように受け取った人も少なからずいたのではないだろうか。
ところが、介護の現場について取材すると、バラ色の未来とは正反対の、惨憺たる状況が見えてくる。信じられないような事故が介護の現場で多発しているのである。(こんなものに金を払う必要があるのか)、怒りさえ覚えるような介護の現状をシリーズで報じていく。
介護崩壊 氷山の一角 ストレッチャーから転落死で刑事事件に
昨年12月、マスコミ各社がある事件について一斉に報道した。
同年8月、福岡市中央区の特別養護老人ホーム(以下、特養)「L」で施設側の不注意により入所者がストレッチャーから転落し頭を強打、その後搬送された関連病院「S」で死亡。搬送先のS病院では、副院長の指示で、死因の種類が「転落死」でありながら「病死及び自然死」とする虚偽の死亡診断書を作成、さらに、医師法で義務付けられた異常死の警察への届け出(24時間以内)を怠っていた。福岡県警は12月になって担当医師と副院長を虚偽診断書等作成と医師法違反容疑で書類送検、特養の職員2名も業務上過失致死の疑いで書類送検した、というもの。
なぜ病院側は犯罪行為としてとがめられるような行為を行なったのだろう。当時のニュースを記憶する人も少なくなったようだが、この事件は様々な意味で、介護の現場が既に崩壊しかけていることを示唆するものである。詳しく検証してみたい。
事故隠しの疑いも!
社福・理事長は虚偽診断書作成を指示したとされる副院長本人だった
事故を起こした特別養護老人ホーム「L」は、ある社会福祉法人が運営している。そして、その社会福祉法人の理事長(当時・昨年12月に辞任)こそ、亡くなった入所者が搬送された病院の副院長だったとされる。
つまり、死亡診断書の死因について、「転落死」とすべきところを「病死及び自然死」にするよう担当医師に指示し、結果的に虚偽診断書作成の容疑を受けた本人が、特養Kの運営法人トップである理事長を兼任していたということである。
自分が理事長を務める特養で起きた事故を隠蔽するため、死亡診断書の死因に虚偽を書かせたという見方もできよう。死因を「病死及び自然死」とすれば、24時間以内に警察への届け出が義務付けられた「異常死」ではなくなると考えたのではないだろうか。
つづく
02●シリーズ地方財政
「大責任転嫁時代」をどう生き抜くか(夕張編)
その28 「補助金ゼロ」でもやってみせる(2)
夕張市の財政破綻に伴い、夕張市社会福祉協議会(以下:夕張社協)の運営する「老人福祉会館」1200万円の予算はゼロになった。これは、市の方針というより、総務省からの要請だったという。普通に考えるなら、運営費がゼロになれば、「閉鎖」しかない。しかし市民、特に「老人福祉会館」をよく利用する高齢者から存続を望む声が殺到したという。
夕張社協の事務局長・野尻つとむ氏は一年前をこう思い返す。
「存続を望んでいただくのはありがたいけれども、存続するのならばこれからは応分の負担を求めなくてはなりません。そこで、何度も『どの程度の額ならこれまでどおり利用するか』というアンケートを実施しました。その結果、300円というラインが見えてきましたので、従来は無料だったが、利用料を取るようにしたのです。ただ、そうなると毎日利用するということは難しくなる。利用者には年金生活者も多かったものですから。利用客が少なくなると、収益が落ちます。
最初の命題は、利用料を取りつつ、これまでどおり多くのみなさんに来てもらうにはどうすればいいか、ということでした。そこで、12枚綴りで3,000円のチケットを準備しました。これを買っていただくと一枚あたり250円になりますので、ほとんどの方は、年金が入ったときにこのチケットを買って下さいます。」
「利用料をとる」とか「割引チケット」を用意するということは、どこでもやっていることではあろう。しかし、これまで、市から補助金をもらって単に施設を「運営」していただけだったのが、利用者からお金をもらってサービスを提供する「経営」に変わったのである。
「運営」と「経営」、言葉は似ているがこの「差」はとてつもなく大きい。「経営」することによって、経費をできるだけ抑えつつ、そしてサービスをどう充実させるかを考える余地が生まれ、「創意と工夫」によって価値が向上するのである。(つづく)
編集・構成:日下部晃志
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