都市を縮小する
これまで、バルブ的な考え方で行われていた事業の見直しや、市役所の行政改革などのお話をしてきましたが、就任後3年目、4年目あたりからは、各種の行政の計画を、佐賀の人口が減少していくという現実に合わせるものに変えていく作業に取り掛かりました。
というのも、当時は大部分の計画が、これからも経済が大きくなる、人口が増えるということを前提とした計画になっていました。各種の計画の将来の需要を予測するときには、過去10年、20年のデータを見て、これからの傾向(トレンド)を計算するのですが、今は、人口減少が始まった分岐点を通過しましたので、これまで同様の計算方式でしたら、例えばゴミの量について計算すると、これからもゴミの量が増え続ける若しくはあまり減らないという予測になりがちなのです。そこで、あらゆる計画を人口が減少するという前提で、見直しました。
福岡都市圏あたりではまだぴんと来ない話でしょうが、日本全体の人口減少は始まっているので、いずれ人口が減り始めるということを頭においておく必要があります。
■都市計画の見直し
まず、都市計画を見直しました。市街地をこれ以上郊外に広げない方針で見直すことは、初めてのことでした。これまで、郊外に、郊外に展開していた都市計画を、むしろ中心部に公的施設などを再編集約し、都市自体を小さくする方向に変更しました。いわゆるコンパクト化です。
なぜこういったことが必要かというと、財政がどんどん厳しくなっていくときに、引き続き郊外に道路を伸ばしていっても、その維持管理ができなくなりますし、郊外に高齢者が分散して住んでいると、福祉サービスにとてもコストがかかるのです。山間部ではもはや福祉サービスを行う民間事業者の採算割れが続出していました。
道路計画も全面的に見直しました。といっても、国道や県道の整備は見直す権限がなかったのが残念ですが、佐賀市の場合は、昭和6年に定められた道路計画がそのまま残っていることもありました。住民からは、建築規制はかかっているのに、ちっとも道路ができないとの苦情も来ていました。
そこで、全国で始めての取り組みですが、70年ぶりに道路計画を全面的に見直し、今後の渋滞の見通しや必要性などを再検討し、結果として郊外に展開する予定の道路計画はほとんどが廃止となりました。中心部の道路でも、今後、何十億円もお金がかかり、かつ商店街をぶち抜く意味のない道路計画なども止めました。
それにしても、道路を作ることが好きな人は多かったですね。職員も、住民も、議員も。道路はただの道具ですが、道路自体が何か地域に発展をもたらすと誤解しているようでした。
すでに工事や用地買収が進んでいて、建設を止められなかった道路もありました。田舎の道路でほとんど渋滞しないのに、両側に3メートル幅の歩道のある道路や、がらがらの県道バイパスなど、都会の交通量の多い道路を見慣れている人たちが見たら、「税金の無駄づかいじゃないの?」と思うような道路はいくつもありました。
■農村下水道計画の見直し
面白い例としては、ある人口減少が進んでいる集落での、農村下水道整備事業の見直しです。当初のプランでは、計画が定められた2001年を処理人口の基本としていましたが、実際に利用が始まるのは2008年ころで、住民が農村下水道に接続を終わるのはさらに何年も先のことです。そのときの人口は、計画よりもずっと少なくなっているのです。
また、集落の床面積に応じて昼間に人が流入してくると推定する不思議な計算式を使っていたようで、昼間にたくさんの人口が流入してくるのでさらに規模が過大となる計算となっていました。
私は、住民が下水道への接続を終わる2010年頃の人口を推定し、さらに流入人口も現実的な数字にしようとしましたが、計画を修正して現実にあった数字にすることは、県庁がなかなか認めようとはしません。結局、妥協して、多少の計画縮小で手を打ちました。
このような考えの下に実施された農村下水道事業は、処理施設の稼働率が低いはずです。実際どうかなと思っていたら、佐賀県内の農村下水道の稼働率は50%を切っているものが沢山ありました。税金の無駄使いです。
■下水道整備計画も過大なことが多いです。
下水道整備計画なども、問題があります。技術の進歩で、洗濯機などは節水型が増えてきて、一家庭の水の排水量が減りつつあります。処理場の規模をこれまでの予想より小さくしても大丈夫です。
これに加えて、人口減少の時代には、高齢者世帯が多い農村地域に下水道整備をすることはとても問題が出ます。整備後にその家が空き家になる可能性も高く、そのような地域においては、合併浄化槽の整備を進めるか、整備自体をやめるという選択肢を検討する必要があると思います。
酷なようですが、わざわざ何十年ももつ下水管を、何百万円もかけて高齢者だけの家に引いても、5年もしないうちに空き家になるとしたら、そして高齢者も100万円以上もかかる水洗化を望まないとしたら、その家に下水管を引くことはやはり資源の無駄遣いです。むしろそのお金を高齢者福祉に使ったほうがまだましです。高齢化と人口減少が始まる日本には、ともかく投資の効率を考えていく必要があるのです。
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