特別養護老人ホーム「L」が福岡市に提出した事故報告書をご覧いただきながら、ストレッチャーからの転落・死亡事故について検証してみたい。
ストレッチャーからの転落死事件本文 (拡大はこちら)
まず、報告書の日付に注目していただきたい。平成19年8月13日となっている。しかし、事故の概要欄「事故発生日時」は平成19年8月2日である。11日も経って事故報告をしたことになるが、この段階から既に県が定めた「要領」を守っていなかったことになる。
福岡県の要領には、「事故報告の時期について、所要の処置(救急車を呼ぶ、医師への連絡、利用者の家族への連絡等)が終了した後、速やかに保険者に対して報告を行なうこと。」と記されており、さらに「事故の事後処理状況にもよるが、概ね事故発生後、3日以内に所定の報告を行なうものとする。ただし、事故の程度が大きいものについては、まず、電話等により、保険者に対し、事故の概要について報告すること。」としている。
(福岡市中央区に在る特養ホームの場合、報告書を提出すべき「保険者」とは福岡市であり、具体的には、まず中央区役所の介護保険課に提出される)
本件事故報告書は事故発生から11日も後になっており、概ね3日以内とされる規定から、大幅に遅れている。念のため中央区役所に確認したところ、電話による報告も無かったという。報告書が遅れて出されたことについては、提出当時、区役所の介護保険課が厳しく指導したとされる。つまり、施設側の怠慢を注意したということだ。
過失による死亡事故を引き起こしておきながら、「報告書」はもちろん電話の報告さえしていなかったことは、重大な違反行為であろう。そして、報告書の内容を確認した中央区役所・介護保険課は、重大な事故との認識を持って、特養「L」に対し警察への連絡を指導したとする。(報告書の「事故後の対応」欄・警察への連絡では「無」に丸印が付けられているのが分かる。)警察への連絡の有無を確認する欄が機能したケースである。
担当課長に話を聞いたところ、「死亡事故、しかもストレッチャーから転落させている点を重く見ました。警察への連絡は『無』となっていましたが、当然、警察に連絡すべき事案として指導しました。」と言う。的確な判断だったというしかない。この指導がなければ、事件にはなっていなかったのだ。
問題の特別養護論人ホーム「L」の杜撰な対応は、市側への報告時期だけをとって見てもご理解いただけるだろう。施設側は11日間、何をしていたのだろう。そしてなぜ警察への連絡が「できなかった」のだろう。
不注意では済まされない施設側の「業務」
事故報告書<事故の内容及び経緯>には、入所者を移動用ストレッチャーから入浴用ストレッチャーに移す際、移動用ストレッチャーのサイドバーを下げたまま反対側へ移動したため、入所者がストレッチャーから転落したと記されている。つまり転落防止柵がない状態で目を離したということになる。入所者は85歳、要介護度は5となっている。
介護の現場で働く方々や専門家に聞いてみたが、「入浴時には2人付いていたはずだが、記載内容が不十分でよく分からないところがある。しかし、あってはならない対応。要介護度5の方の入浴に際しては細心の注意を払うものだが・・・。2人とも目を離すということ自体、考えられない。」という。言われるように、特養の職員が一体どのような「業務」をしていたのか、この報告書は極めて曖昧である。職員が2人居たのかどうかさえはっきりしない。
結果的に、入所者は頭を強打し「脳挫傷による外傷性ショック」で亡くなられている。不注意で済まされるような事故ではなかったのである。事実、2人の特養職員が業務上過失致死の疑いで書類送検される。
つづく
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