▼▽ 本日の記事・目次 ▽▼
▼01 崩壊する介護5
事故報告書が語るストレッチャー転落・死亡事故
~ そして新たな疑惑へ ~
▼02 こども病院人工島移転再考 その3
~こども病院は誰の夢を膨らませている?~
▼01 崩壊する介護5
事故報告書が語るストレッチャー転落・死亡事故
~ そして新たな疑惑へ ~
杜撰な事故報告
特養「L」の極めて重大な過失によって引き起こされた事故で、ストレッチャーから転落、頭を強打して出血した入所者を運んだ先は、城南区にある「協力病院」だった。しかも救急搬送ではなく施設の車を使ってである。人命軽視との批判を受けても仕方があるまい。
特養側が福岡市に提出した事故報告書は不十分なもので、「バイタルチェック」を実施しながらその測定値さえ記載されていない。また、死因として「外傷性ショック」と記しているだけで、肝心の「脳挫傷」という一語は記入されていない。死亡診断書には記載されていたとされる「脳挫傷による」という箇所を、故意に削ったのではないかという疑惑を持たれても仕方あるまい。
外傷性ショックといっても打撲、ヤケドなど様々なものがあるからだ。事故後、概ね3日以内とされる事故報告書を、11日も経って提出したわりには杜撰な報告内容である。しかしその杜撰な事故報告書でも様々なことを語りかけてくる。
くすぶる「事故隠し」との指摘
もう一度整理するが、特養「L」で起きた、ストレッチャーからの転落・死亡事故についての「事故報告書」には、次のような疑問点があった。
*事故から11日も経って市に提出された。
(県「要領」では概ね3日以内)
*死因があいまい。脳挫傷という肝心の一語が入っていない。
*事故時の介護職員の人数・配置が判然としない。
*なぜ救急搬送ではなかったのか、について説明がなされていない。
しかし、入所者を移動用ストレッチャーから入浴用ストレッチャーに移す際、サイドバー(転落防止柵)を下げたまま、手の届かぬ状態になり転落させるという介護職員の「過失」は明記されている。介護の専門家ならば、転落のくだりを一読しただけで、事件性を疑うという。しかし、特養側からも搬送先病院からも警察への届けはなされなかった。
必然的に「事故隠し」という言葉が浮かんでくる。
中央区に在る特養「L」の近くには、いくらでも病院があるはずなのに、わざわざ離れた城南区の病院に搬送している。そこが入所者のかかりつけであろうと、特養の系列であろうと、人命より重たい理由は存在しない。一刻を争うはずのけが人を、系列病院に搬送したこと自体、極めて不自然だったのである。
協力病院に「外科」は無かった!
「事故隠し」との疑惑を呼ぶ大きな理由がもうひとつ存在する。搬送先病院の副院長(医師法違反・虚偽診断書作成で書類送検)が、事故を起こした特養「L」を運営する社会福祉法人の理事長だったことは先述したが、実はこの病院の診療科に「外科」は存在しない。
事故報告書によると、転落→頭部止血→バイタルチェック→搬送という手順は、10分間で行なわれている。(注・記載内容が真実ならばの話だが)
入居者の状態が相当に悪いということはもちろんだが、搬送先の診療科が「外科」でなければならないことは一目瞭然である。系列病院だからといって内科系統の病院に運ぶのは極めて不自然であろう。「事件」ではなく「事故」で済まそうとしたとの疑惑を持たれても仕方がない。
系列=事件隠しの温床と言われないために
病院側が介護サービス運営法人の理事長や理事を占め、系列病院、系列施設の関係が強固であればあるほど、双方が意を通じることで「事件」が闇に葬られる可能性は高まる、と警鐘を鳴らす福祉関係者もいる。
系列の関係が事故隠しの温床になっているとすれば、それはまた介護サービスへの信頼を損ねることになる。今回のような事件が重なれば、医療や介護といった国民注視の課題に対する批判はさらに激しさを増すだろう。チェックするための第3者機関設置など、そうならないための具体策を講じる時期に来ているのではないだろうか。
事故からの教訓 そして新たな疑惑
以上、刑事事件にまでなったストレッチャー転落・死亡事故について検証してきた。この事件は、次のようなことを私たちに訴えている。
(1)介護サービスの現場では、介護職員の不注意(過失)で死亡事故がきている。つまり介護サービスの質が低い。
(2)特別養護老人ホームなどの入所施設では、外部の目が行き届かないため、事故隠しが行なわれる可能性がある。
(3)特養と系列病院の関係次第では、「事件」が隠蔽される可能性がある。
(4)「事故報告書」の存在は重い。
そして、取材班は他の「事故報告書」から新たな「介護疑惑」を見つけるとになった。
~ こども病院は誰の夢を膨らませている? ~
「市民の皆さんや福岡市にお願いしたいことは、場所や経営形態などを考えるときに、皆さん今の、現在の子供病院の感覚でしか考えていないのではないでしょうか。5年先、10年先の病院、医療体制を考えてもう少し夢を膨らませていただけたらと思います。」
病院事業運営審議会における水田委員長(九大病院長)のこの発言は一見「正論」のように見えてしまう。こども病院は狭隘化、老朽化しているのだから、場所は遠くなるが、移転して、もっと規模も大きくして、さらには診療科も増やせば、ひろびろとした良い病院になるではないか、という考えだ。
たしかに、病院がひろびろとして、機能が充実することに異存はないし、しかもそれが安くできるのであれば、言うことなしのように思えてしまいそうになる。
数年前「改革には痛みが伴う」と言って、改革とも言えない改革を進めた宰相がいたが、多少の負担に耐えることなしに、よりよい状況の改善は望むことはできないという考え方だ。
しかし、よく考えてみよう。こと、病院に関して水田委員長の言う「夢を膨らませる」のは誰のことだろうか。地場の医療関係者だろうか、それとも市長や市職員だろうか、あるいは漠然と「市民」なのだろうか。「夢が膨らむ」こととは、「病院の規模が膨らむ」ということとイコールで結ばれていいのだろうか。
今のこども病院において、政治関係者は誰の「夢を膨らませる」ことを考えるべきなのだろう。それは、そこに通院し、療養するこども達ではないか。心臓などの重い病気を抱え、それでも、いつか治したい、普通に生きたいというこども達のいたって人間らしい夢ではないか。
何度も言うようだが、心臓の病を抱えているこども達は、いつ容態が急変するかわからない。だからこそ、交通アクセスが整備され、渋滞が少ないなど、利便性の高いところに病院が存在していなければならないのである。
これを「ひろびろしているから」という理由だけで人工島移転を許容することは、1分1秒の遅れでこども達の「夢」を根こそぎ奪ってしまうという事態をも許容しているのと同じである。
「5年先、10年先の病院、医療体制」も大事かもしれない。しかし、最優先されるべきは、ほかならぬこども達の5年先、10年先の命であり、未来である。「命のリスクは増えるけど、広くて快適になるから我慢してね」と言えるのだろうか。(つづく)
日下部晃志
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