このシリーズのNo.27(5月15日掲載)で記述していたが、正式に大和ハウスから前期の決算の発表があった。大和ハウスは過去最高益を更新、業界第一位を3年連続、と新聞の活字が躍っていた。積水ハウスと大和ハウスの中期経営計画を見ていても、当面、積水ハウスが首位に復帰することはないだろう。経済記者の目で見ると、大和ハウスは多角化に成功し、住宅部門の落ち込みを他の事業、商業建築事業などがカバーしていることを挙げている。積水ハウスは、住宅部門の不振を開発事業でカバーすることが出来ないことが原因と指摘している。
2年前には、積水ハウスは無借金会社になったことを誇らしく語っていた首脳も、いつの間にか、大型開発事業用として、都心の1等地の購入のため、借入金を増やしている。しかし外資系ファンドの日本投資の抑制の影響で、昨年後半より都心の地価も低迷へと潮目が変わってしまっている。2、3年の開発事業の計画の間に地価が下がる可能性もあり、最悪は不良資産化する可能性も否定できないのである。筆者が取材した目で、両社を公平に比較すると、両社の差は経営者の能力に起因していると思う。大和ハウスの樋口会長は会社内ではワンマンであろうと思うが、基本姿勢は仕事をする組織にしている。実績を上げられない、経営能力のない幹部は、容赦なく交代させる、役員の1年任期制で役員のモチベーションを高めることや、やる気のある社員に対する支店長公募制等、仕事をしなければならない組織を構築している。
積水ハウスの和田会長は、自分の意見を聞く人間を登用、名古屋時代の古い人脈の情実人事を優先して、自分に迎合する社員を経営の中枢に据え、ワンマン体制の組織を構築してきた形跡があるように思える。反対意見の人たちは、今や誰もいないのではないだろうか。このような会社で、士気が上がるわけがないだろう。大和ハウスに負けるべくして負けていると思う。田鍋時代、営業マンは他社と競合しても、絶対負けないという自負心を持っていた。
住宅部門では圧倒的に積水ハウスが抜きん出ていた。大和ハウスの3割以上は差があったろう。今や住宅部門でも数字的には変わらない位までに、積水ハウスが落ち込んでいると言ったほうがいいだろう。当然多角事業展開しているほうが勝ちに決まっている。
積水ハウスの営業の、お客様への真摯な態度、アフターサービス体制、住宅商品の性能、品質、協力工事店を含めた工事体制にはすばらしいものがある。このすばらしい伝統はいまでも生きている。大和ハウスの樋口会長が言われた言葉が思い出される。「魚は頭から腐る」
野口孫子(敬称略)
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