▼▽ 本日の記事・目次 ▽▼
▼01 なぜ起きる介護事故
「事故報告書」に見る介護崩壊の現状
▼02 こども病院人工島移転再考
その4 こども病院は「生活の一部」
▼01 なぜ起きる介護事故
「事故報告書」に見る介護崩壊の現状
福岡市内の特別養護老人ホームで起きた、ストレッチャーからの転落・死亡事件を通して問題点を検証してきた。事故が起きたことは、もちろん特養職員の「過失」によるものだが、自家用車による搬送、そして事故隠しともいえる虚偽診断書作成、医師法違反・・・。職員の過失も責められることだろうが、むしろ施設側や運営法人としてのその後の対応に大きな問題があると言えよう。(この施設の問題については、連載企画とは別に改めて追跡、報道する。)
介護の問題をシリーズで報道するにあたって、刑事事件にまで発展した事例からひも解かせていただいた。亡くなられた元入所者のご家族や関係者の方には心からお悔やみを申し上げておきたい。本シリーズでは、身近な福岡市の介護の現場でなにが起きているのか、施設や運営法人の対応はもちろん、市役所の対応に問題はないのか、そして介護保険制度の欠陥はなにか、介護の現場で働く人たちの生々しい声も聞きながら、情報公開請求によって入手した「事故報告書」を通して問題提起していく。
風呂で溺れた!?
ここに1枚の事故報告書がある。平成18年8月に、市内の特別養護老人ホームから福岡市に提出されたものだが、まずはご覧いただきたい。死亡事故に至ってはいないが、入浴中に浴槽内で溺れたケースである。入所者の状態は「くも膜下出血及び脳挫傷により左半身麻痺。失語もあり。ADLは全介助で、歩行もできない為、車椅子で移動している。」と記されている。「ADL」とは(Activities of Daily Living)の略で、人間生活を営む上での基本的な動作、即ち寝る、食す、排泄、移動、入浴などの全てを意味する。ADL全介助とは、全ての生活動作に介助が必要ということである。
この身体状況を前提に考えると、報告書の事故概要、経緯などには首をかしげざるを得ない。「職員が他の利用者の補助に入り、振り返って○○○を確認したところ、浴槽内にて顔の4分の3が浴槽内の湯に浸かっている状態だった。」とするが、「開眼+、チアノーゼ+、自発呼吸-」と続く。自発呼吸がなく、チアノーゼが出ているということだ。ADL全介助の入所者の入浴で、この状態になるまで目を離していたということになる。自分の身内がこのような処遇を受けたらどう思われるだろう。
先述したとおり、介護サービス施設での入浴においては、2人以上で行なう場合もあるが、1人で何人もの介助を行なうことも多いという。「特養ではありませんが、ある施設で働く友人は、1人で15人入浴させたそうです。1人での介助は、それはきついですよ。もちろん決して良いことではないよね、と話したのですが、そうでもしないと終わらないのです。人がいない、それが一番の問題。入浴は、もちろん入所者の状態によりますが、複数で介助しないと事故が起きる確立は高くなりますね。自分の親はこんなところに入れたくはないですね。人手不足が常態化している施設が多いのではないでしょうか。」ヘルパーの資格を持って6年になる女性はそう語る。もちろん介護の現場で慢性的に人手不足に陥るのには理由がある。その点は本シリーズの重要な論点でもあり後に詳述したい。
いずれにしても、入所者の入浴時に、溺れさせてしまうという事態は看過できるものではない。人手不足だからという理由でこうした考えられない事故が許されるはずもない。本質的議論はもう少し後にして、この事例をさらに検証する。
つづく
▼02 こども病院人工島移転再考
その4 こども病院は「生活の一部」
「5年先、10年先の病院、医療体制を考えて人工島へ移転を」という意見は、一見正論のように思えるが、実は無意識のうちに、「こども達の命」と「病院の快適さ」を天秤にかけているのである。そして、「病院の快適さ」のほうに重きを置いてしまっているのである。これでは本末転倒も甚だしい。優先順位の倒錯である。
「こども病院の人工島移転を考える会」の代表である佐野さんはこう言う。
「水田委員長の考え方は『療養』なんです。こども病院のこども達は『療養』ではないんです。いくら広い公園のような病院があったとしても、お散歩すらできないのに。特に、心臓病のこども達は、入院したら最後、4階病棟(心臓病の病棟)からさえ出られません。兄弟やおばあちゃん達でさえ面会できないような状態のこども達がほとんどです。
また、心臓病に限らず、感染症が恐いので、外には出られません。いくら、広々としたお庭があったとしても、ベッド上で安静にしていなければならないので、外を眺めることすらできないこども達も大勢います。利用者の立場からすれば広いお庭よりも利便性のほうが重要なのです。
こども達にとっては、生活のなかにこども病院があるんです。こども病院に行きながら、学校に通っている子も大勢います。今のところに病院があれば、学校を休むのが半日で済みますが、人工島になれば一日休まなければならなくなります。ただでさえ、学校の時間が少ないこども達にとって、それは重大問題なのです。」
当事者の「実態」を捉えていないのである。目線が違うのである。もう一度水田委員長の言葉を振り返ってみよう。
「広いところですといろいろ夢が広がっていきます。学校もできるし、それからパークもできるし、ファミリーハウスとかもできる。そういうことを考えますと、こどもの国、こどもの村ということにもなりますので、そこのところも少しお考えいただきたい。」
この発言をみれば一目瞭然だが、「療養」と「生活」を区分してしまっている。こども達にとって「こども病院は生活の一部」であるという感覚がわからないのだ。
こういう感覚で、こども病院の移転に関する「諮問」に対して答申が行われていたのである。(つづく)
日下部晃志
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