競争原理で質的向上
―通学する学校を選択できる利点はどこにありますか。
今村 学校選択制になれば、保護者は学校公開日などを利用して学校選択のための情報を集めなければなりません。どの学校が子供の個性や体質に合っているのか、将来の幸せにつながるかなどを考えながらの真剣な情報収集は、保護者ひいては地域社会が子供たちの教育について真剣に考える機会を提供するという効果を生みます。一方、保護者を中心に地域社会が学校に関心を寄せて関わるようになることは、子供たちを受け入れる学校側で質を競うという意識が高まり、学校教育の質を上げていくという効果が出てきます。そのほか、学校を選択することでいじめを回避することや、通学路の安全を確保するなどの問題にも対処できます。
経営者の立場から現在の教育現場を見たときに、学校間に質を競う競争原理が無いことが、学校教育全体に体質的な問題を引き起こしている大きな要因だと思います。質の競い合いを行なうことが、今の学校教育の現場には何より必要であり、そういう点からも学校選択制導入は有効な方策です。
―県内における同制度の実施状況はいかがでしょうか。
今村 全国的に見ますと、現在、学校選択制を導入している自治体は、小学校で1割未満程度、中学校で1割超の学校で実施されています。県内では、久留米市が06年度から市内の中学校を対象に前出の隣接区域選択制を実施しています。当委員会としては、福岡市での実施実現に向けて、同制度導入に関するアンケート調査実施、シンポジウムの開催、教育委員会への働きかけなどを行なってきました。保護者へのアンケートでは、導入推進の要望が大変多いという結果を得ました。昨年10月に行なったシンポジウムでは、全国に先駆けて選択制を導入した東京都品川区教育委員長の若月秀夫氏や元福岡市教育長の植木とみ子氏などを招いて討論を行なっていただき、大変意義深い内容となりました。しかし、現状では導入の必要性は無いというのが福岡市の行政としての結論です。理由は、福岡市の場合、小学校区が公民館区と重なっており、小学生・中学生がほかの校区に通学することになれば、公民館が行なう子供会などとの連携が取りにくくなります。また、同制度を導入しているほかの自治体ほど、その必要性が認められていません。しかし同制度は、現在の教育現場がかかえる体質的な問題を根本的に解決する方策として間違いないものですから、今後も長期的な観点で働きかけを行なっていきます。
学校現場へ企業経営の目を
―授業内容、生徒指導、教師の研修、地域・家庭との連携などで学校の評価を行なう、「学校外部評価制度」への取り組みも行なわれていると聞いています。
今村 学校選択制導入が必要な理由も同様なのですが、学校の現場、また先生方の意識改革の実現が必要とされる課題があります。学校という隔離された環境では、子供たちへ一方的に物事を伝えるという傾向に陥りがちです。そこで、子供たちの立場や地域の目という観点から意識改革を進めるということを含めて、学校外部評価委員に企業経営者を加えるという提言を行ない、実施しています。
また、よく話題になるのは、不当なことを学校に要求してくるモンスターペアレンツ対策です。その対応は各学校で教頭先生が行なっています。ところがなかなか手に負えない。そこで企業経営者としての経験を活かして、われわれも対応の助言・協力を行なっています。
―「父親が学んで家訓をつくろう」という講座の普及を行なっていらっしゃいますね。
今村 家庭そして社会の教育力の低下ということも、とても大きな問題です。そこでまず、家庭の教育力復興の取り組みとして、この講座の普及を推進しています。(株)寺子屋モデルのご指導を得ながら、偉人伝を学んでお父さんが家訓をつくるという講座を、企業の社員研修の一貫として行なうよう進めています。家訓と言っても、そう難しいものではありません。たとえば「いろは七訓・いつも皆で元気にあいさつ」というような親しみがあるものです。数回の講座でわが家の家訓ができあがるのですが、改めて家族の和を感じさせられ、感動します。
―本日は、大変意義ある取り組みをお聞かせいただき、ありがとうございました。
今村 ありがとうございました。
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