官製不況そして人手不足
昨年に続いて今年に入っても、建設・不動産業界を取り巻く環境が完全に回復したとは到底言いがたいだろう。法改正直後の急激な着工遅延、さらにサブプライムローン問題や建設資材価格の高騰、分譲マンションの販売不振やファンドの冷え込みなどが追い討ちをかける格好となっている。
その結果、07年度の新設住宅着工件数は103万5,598戸と前年比19.8%減少。今年に入ってからは、1月86,971件(前年比5.7%減)、2月82,962件(同5.0%減)、3月83,991件(同15.6%減)、4月97,930件(同8.7%減)と、前年比減少幅は昨年に比べてやや縮小。適判合格件数も約2,000件まで増えたものの、改正建築基準法を契機とした倒産も依然として発生しており、建設・不動産業界が立ち直ったとは言えまい。
さて、今回から、官製不況の最たるものとして挙げられる改正建築基準法の陰に隠れて、世間ではあまり話題とはならなかった大臣認定プログラムや改正建築士法の問題に焦点を当ててみたい。これらは、建設業を担う建築士にとって今なお大きな課題となっている。
最近、問題となっているのが、設計士の廃業である。構造設計はささいなミスでも1からのやり直しとなるため、とくに技術と経験が熟練した50代の収入が減り、意欲をそぎ落とされ、皆が仕事に魅力を感じられなくなったようだ。50代以上の約6割の職人が今年中にも廃業するかもしれないという話も聞く。もしそのような事態になれば、業界にとって非常に痛手である。
さらに人手不足の問題に拍車をかけているのが、改正建築士法である。今年1月30日、JSCA(社団法人日本建築構造技術者協会)が「建築構造士認定試験」を中止すると発表した。
これは、改正建築基準法に関連して改正された建築士法により、新たに「構造設計一級建築士」が今年11月に設置されるため。「構造設計一級建築士」は、一級建築士として5年以上の構造設計・監理の実務経験が必要で、「これから構造設計への道は狭き門になるだろう」(ある一級建築士)と見られている。
またJSCAは、構造計算書を偽造した遠藤孝一級建築士の問題(遠藤氏は会員ではないが、遠藤氏に構造設計を再委託した構造計画研究所と、元請設計者の松田平田設計が賛助会員だった)などもあり、昨年11月30日をもって構造計算の検証業務から撤退していたようだ。このうえ、さらに建築構造士も輩出しないとなると、同協会から会員が次々と離脱することも予想される。
国交省は1月、建築確認申請の件数が増えても適判が停滞しないように、JSCA、BCS(社団法人建築業協会)、社団法人日本建築士事務所協会連合会を通じて、判定実務を手がけていない判定員候補者の就業を促している。ここでは、改正建築士法が人材育成の足を引っ張る可能性があることを指摘しておきたい。
つづく
*
【イベント情報】官製不況に打ち克つ シンポジウム開催 (株)データマックス
(株)データマックスは、8月26日に1,000人規模のシンポジウムを開催いたします。講師は北川正恭・早稲田大学大学院教授(元三重県知事)、木下敏之(前佐賀市長)、青木茂・(株)青木茂建築工房主宰などを予定しております。北川氏には「生活者起点」の行政改革派の立場から、木下氏には地方行政に関わっていた立場から、青木氏には建築設計に携わっている立場から、それぞれ提言していただきます。
※記事へのご意見はこちら