◆”キングメーカー”森の影響力低下
町村派のお家騒動は、中川氏と町村信孝・官房長官の跡目争いが発火点だ。
「ムラの後継会長を誰にするか頭が痛いよ」
森氏が歴代の首相経験者への挨拶回りのために訪れた福田首相にそうこぼしたのは1ヶ月ほど前だった。その頃、公務員制度改革基本法をめぐって中川vs町村氏の対立が頂点に達しようとしていた。
同法案は難産の末に審議入りしたものの、民主党が大幅修正を要求して暗礁に乗り上げ、成立は絶望的と見られていた。通産省OBの町村氏は慎重姿勢を取り、完全にブレーキを踏んだ。
「霞ヶ関の抵抗はすさまじく、政府・自民党でも、町村氏ら官僚OB議員は霞ヶ関と一体になって継続審議に持ち込み、事実上つぶそうとした」(自民党国家戦略本部メンバー)
推進派の中川氏は、官僚と族議員の同盟を「目に見えないステルス複合体」と批判し、官邸に乗り込んで福田首相に「民主党の修正案を丸呑みしてでも成立させるべきだ」と説いた。支持率を気にした福田首相は中川氏の意見をいれ、民主党との妥協を支持して公務員制度改革基本法は6月6日に成立した。
そのやり方が、森氏の不興を買った。
「同じ党の仲間を族議員とか、ステルスだとかいう必要があるのか。あれはちょっとやりすぎじゃないか」
「町村派」と呼ばれてはいても、派閥の実権は依然として名誉会長の森氏が握っている。森氏はいったん町村氏を会長に据えて「後継者」にしたかに見えたが、町村氏が官房長官に就任し、幹事長を退任した中川氏が派閥に復帰すると、町村氏を会長から外して中川氏を代表世話人に据え、「町村派とは呼ぶな」と宣言した。事実上の”町村廃嫡”と見られた。しかし、会長の座を中川氏に奪われることを心配した町村氏は、「党3役と閣僚は形式的に派閥離脱する」という慣行を破って派閥に残り、中川氏と同格の代表世話人となった。
「森さんの意中の派閥後継者は中川さんしかいない。だが、官房長官時代の女性スキャンダルを抱える中川さんは総裁カードにはならないから、キングメーカーの座を維持したい森さんは、不満はあってもポスト福田に麻生太郎を考えている。それに対して中川さんは増税派に近い麻生には絶対反対だ。そのすれ違いが大きくなり、中川さんを実力行使に走らせた」
森側近議員はそう見ている。
もし、このまま森ー中川両氏の亀裂が深まれば、森氏のキングメーカーとしての力は大きく低下する。
◆「ベンチのつかみあい」に終わるのか
現在、中川氏の周囲には竹中平蔵氏、高橋洋一氏ら小泉改革のブレーンたちが集結し、「反霞ヶ関」「反増税」の経済成長戦略、いわゆる”上げ潮路線”を提唱している。
中川氏は町村派政策委員会でそれを派閥の政策として打ち出し、杉浦正健・政策委員長ら33人で勉強会を旗揚げした。87人の最大派閥の3分の1だが、ライバルの町村氏には独自の勢力はなく、派内の大半はまだ中間派といっていい。
中川氏に近い自民党若手議員の1人はこう語る。
「自民党内では派閥領袖と族議員が予算バラマキとそのための増税を要求し、改革を忘れて先祖返りしている。沖縄県議選にも負け、このままでは座して死を待つばかりだ。総選挙に生き残るには、小泉さんのように改革の旗を掲げて党内の族議員と決別するつもりで戦うしかない。中川さんにとって派閥を上げ潮派へとオルグするのは第一段階。次のステップは党内の改革支持派の結集。少数派でもかまわない。衆院3分の2の再議決を阻止できる勢力を固めれば、党内で”拒否権”を持てるからだ。そうして総選挙で生き残れば、与野党伯仲になったときにキャスティングボードを握ることができる」
自民党には国家戦略本部や「プロジェクト日本再生」の若手グループなど”上げ潮”支持派はそれなりの勢力がある。中川氏がこのところ小池百合子・元防衛相や渡辺喜美・行革相に接近して取り込みをはかっているのも、改革勢力としての”イメージキャラクター”づくりと見ていい。
中川氏自身、著書の『官僚国家の崩壊』で自ら女性スキャンダルをザンゲし、”過去の清算”にとりかかった。自ら総裁選に意欲を見せたという受け止め方が多いが、むしろ、政界再編の旗手として表舞台に立つためにケジメが必要だったのではないか。
その点、確かに、かつて小沢氏が「政治改革」を叫んで佐川急便事件や皇民党事件で負った竹下派中枢政治家としてのマイナスイメージを消したやりかたにも通じる。
民主党の菅直人・代表代行はそんな動きを、「自民党は試合が不利になるとベンチでつかみあいをはじめて国民の耳目を集め、それが追い風となって選挙を乗り切る」と評した。
しかし、「ベンチのつかみあい」の茶番が何度も通用するとは思えない。
中川氏が「台風の目」になれるかどうかは、15年前の小沢氏のように党を割る”捨て身の覚悟”の存否にかかっている。