ストレッチャーからの転落・死亡、溺水の2件の介護事故に続き、パーキンソン病を発症していた入所者の死亡事故について検証する。
早良区内の特別養護老人ホームで起きたこの事故の報告書は、記載内容が不十分で、事件性を疑っていいのかどうかさえ判然としない。この程度の報告書で市役所側が納得したとすれば、怠慢のそしりは免れまい。
なにが不十分か、詳しく見てみよう。
特養側は、パーキンソン病の入所者には、当然その動作に不自由があることを認識していたものと思われる。
事故報告書の事故の<原因>には、「パーキンソン病の薬が切れて、体が自由に動かなかったと思われる。」と記されている。まず、不思議に思うのは、パーキンソン病という難病を抱える入居者であるにもかかわらず、薬が切れているかどうかの確認さえしていなかったのかということである。
◆抜け落ちた重要情報 パーキンソン病・病状不明
この報告書は事故当日の12月29日の日付になっているが、市側の受付は6日後の1月4日である。報告書に「薬が切れて・・・」という記述があるからには、施設側は入所者がパーキンソン病で投薬を受ける状態であることを把握していたことになる。
しかし、先述したようにパーキンソン病はその重症度を5段階に分類している。ステージ5になると自力での日常生活は不可能とされるが、亡くなられた入所者がどの程度の症状であったのか記されていない。薬が切れて身体が自由に動かないということは、少なくとも初期の症状ではなかったと思われるのである。ステージ1や2の段階では生活に不便があっても、体がほとんど動かないということはないとされるからである。
報告書からは、パーキンソン病がどの程度まで進行していたかという重要な情報が抜け落ちており、一読しただけではパーキンソン病のため起きた事故であるかあるかどうか判断を下しにくい。市役所側が、この程度の報告書で納得すること自体、不可解である。念のためこのケースについて事情を聞いたり、調査をしたという公文書の存在を確認したが、なにもないという。
◆行政の対応不十分
実は問題はそこに存在する。市役所側は本件だけでなく、どの報告書についても、事実関係解明のための立ち入り調査や、関係者の聴取などを行っていないケースが大半であるという。
市監査指導課に確認したところ、ケースバイケースとしながらも、報告書が提出されても事故原因の究明には当たらず、エスカレーター式に県庁に報告書を流すだけなのだという。
これでは、なんのための事故報告書なのか分からない。