国会の会期末が近づいてきた。鳩山由紀夫・民主党幹事長は「この1週間、問責を視野に攻勢を強めたい」と参院で首相問責を決議する姿勢を見せているが、遅すぎる。会期末にやっても迫力不足は否めない。福田首相は”今国会はもう乗り切れた”とばかりに欧州に外遊し、7月のサミットしか頭にない。問責を無視する構えなのだ。民主党は完全にタイミングを誤り、首相を追い詰め損なった。
不穏なムードなのはむしろ与党内だ。今月から始まる税制改正議論や来年度予算の概算要求をにらんで伊吹文明・幹事長ら執行部は小泉内閣以来の歳出削減方針の撤回を求め、各大臣からは「予算を増やせ」の大合唱。与謝野馨・前官房長官ら《増税派》は消費税の大幅アップを主張している。それに対して中川秀直・元幹事長や若手グループは”バラマキはNO,増税もNO”と反目し、「増税派とはともに天を戴かず。解散・総選挙で政界再編だ」と気勢をあげている。
福田首相の足元はぐるりと地雷が取り囲まれている。6月には「骨太の方針」(経済財政の基本方針)で、バラマキか、増税か、改革路線の維持かを選択しなければならない。地雷のどれかを踏むことになるのだ。
そうしたなか、ポスト福田の”本命”といわれる麻生太郎・前幹事長が公然と福田批判を展開し、ネクストバッターサークルでウオーミングアップを始めた。
◆秋に「ダブル党首選」か
「この秋には自民党総裁選と民主党の代表選挙が一緒になるだろう」
麻生側近議員は自信たっぷりに語る。
確かに、民主党では9月末に小沢一郎代表の任期が切れ、代表選が行われることが決まっている。自民党側は当初、「民主党は代表選で反小沢勢力が決起し、党が割れる」(町村派幹部)と期待していたが、福田政権の敵失で今や反小沢グループも、「党内にゴタゴタを起こすのは得策ではない。政権交代が最優先だ」とホコを納めており、小沢再選は固い。むしろ、小沢執行部は、「若手の対立候補に出てもらって論戦を戦わせ、代表選の党員投票を総選挙に向けた党勢拡大につなげる」という戦略を立てている。
問題は「自民党総裁選」の方だ。福田首相の総裁任期はあと1年以上残っている。内閣支持率は底に近づき、麻生氏がいくらポスト福田に意欲を燃やしていても、首相が退陣するといわない限り、総裁交代はない。
肝心の福田首相は、サミット後の政治日程について、
「夏休みはどこにも行かない。仕事、仕事だ。道路特定財源の一般財源化、社会保障、そのあとは環境税と、やることはいっぱいある」
そうやる気満々なのだ。
福田首相は後見人の森喜朗・元首相や青木幹雄・前参院議員会長に、サミット後に自民党執行部と内閣を全面改造する意向を伝えており、人事をテコに「政権延命」を考えていることは間違いない。
麻生氏サイドはそんな”KY首相”をどうやって降ろし、総裁選に持ち込めると考えているのか。
◆「内閣改造」が福田おろしの発火点
「その改造が福田さんの命取りになりかねない」
そうした見方は首相を支える町村派内にもある。
福田首相は最大派閥の町村派を中心に、津島派、山崎派、伊吹派など8派連合で担ぎあげられた。
ところが、党のかなめである伊吹幹事長は日銀総裁人事の混乱で「首相の指導力がない」と批判して以来、すっかり福田首相との関係が冷え込んでいるし、古賀誠・選対委員長は福田首相が道路特定財源の一般財源化を決めたことに不満がいっぱい。谷垣禎一・政調会長は「改革路線の転換」を主張して首相の足を引っ張り始めた。
もはや福田首相の政権基盤である8派連合は崩壊寸前の状況なのだ。
さらに出身派閥の町村派では、安倍晋三・前首相が「麻生政権をつくりたい」と多数派工作をはじめ、中川氏と町村信孝・官房長官の跡目争いが激化、とても派内が一致して政権を支えるどころではない。
「総理はおれの言うことに耳を貸さない。どうせ改造で交代させる気なんだ」
福田首相の”女房役”である町村官房長官はすっかりやる気を失っているのである。
福田首相がいくらその気でも、足元はガタガタ、誰も支える者などいない「裸の王様」というのが真の姿なのだ。
そんなところに内閣改造をやれば、外される党役員や大臣の不満が高まるのは確実だろう。
「現内閣は安倍前政権から引き継いだ居抜き内閣で、実は鳩山邦夫・法相や甘利明・経済産業相をはじめ、大臣や副大臣には麻生さんが幹事長時代に起用した”親麻生”の顔ぶれが多い。だからこれまでは動きにくかった。しかし、改造で彼らが戻れば、自由に動ける。一気に福田降ろしの声があがるはずだ」(麻生派議員)
福田首相がサミット議長でいい気分になっている間に、”福田おろし”の仕掛けが用意されている。